第70章 初詣

「…じゃあ、せーの、で一緒に開けますよっ！はいっ、せーのっ！」

三人同時に、パッとおみくじを開く。
ここでも心底嫌そうな顔をする信長様を無視して……


「わぁ〜、『大吉』だよっ！見て見てっ！」

きゃあっと歓声を上げた結華は、『大吉』のおみくじを嬉しそうに信長様に見せている。

信長様自身は、自分のを手に持ったまま特に何の反応も見せない。

「信長様は……どうでした？」

どうも反応が悪いので、もしかして悪いのが出たのか、と恐る恐る聞いてみると……

「…………『大大吉』だ」

「っ…えええっ！み、見せて下さいっ…」

信長様の手から、引ったくるようにおみくじを奪い取り、それをマジマジと見てみると、『大大吉』という文字が、どどーんと存在感たっぷりに鎮座していた。

(うっ…さすが信長様っ…滅多に出ないやつを軽々と引き当てるなんて…しかも嫌々引いたのに、一体どんな強運の持ち主なのよ…)


おみくじを手に呆然と立ち尽くす私を、信長様は呆れたように見ている。

「おい、呆けてないで、貴様のも見せろ」

「っ…えっ……イヤ、です…」

「………は？」


信じられないものを見るような目で見ないで欲しい。
だってこれは……ちょっと見せられない。

「見せろ」
「イヤです」
「人のは見ておいて自分は見せぬ、とは…貴様、いい度胸だな」
「っ……」

じりじりと距離を詰められる。

おみくじを後ろ手に隠して後ずさる私を、獲物を追い詰める鷹のような目で見据える信長様。

厳かな雰囲気漂う神聖な境内に不釣り合いな、不毛な攻防だ。


「俺から逃げられると思っているのか？」
「ちょっ…それ、神社で言う言葉じゃないですからっ…」
「ならば、大人しく俺に全て捧げろ」
「っ…それも！こ、子供の前で言うことじゃないですっ！」




「…『学問大いに上達する』『良縁すぐに出会いあり』…父上〜、良縁ってなに〜？」

おみくじを巡って言い合う父と母を気にすることなく、真剣な顔で自分のおみくじを読んでいた結華が、無邪気な声で信長様に問いかける。

(ひいっっ、怖っ！鬼……？)

『良縁』という言葉を聞いた瞬間、ピキッと音がするかと思うほどの勢いでこめかみに青筋を浮かべて顔を顰めた信長様。

(いやいや、どれだけ過保護なの…反応し過ぎでしょ……)