第68章 おあずけ
袷からすっと入ってきた冷んやりした手のひらが、胸の膨らみに直接触れて、その冷たさに思わず身を縮める。
「ふっ…冷たかったか?俺の方がすっかり冷えてしまったようだな………朱里、今宵は、貴様が俺を暖めよ、よいな?」
「っ…ふっ…は、い…」
覚束ない返事を返す私の首筋に、冷えた唇でちゅうっと吸い付いて、はぁっと熱い息を吹きかける。
首筋からゾクゾクとした快感が下へと下りていき、腰から下の力が抜けてしまいそうになる。
体重を預けて寄りかかる私を、逞しい腕が抱きとめる。
(あぁ…信長様の腕の中、すごく安心する…)
「雪見は終いだ、次は、貴様の乱れ舞う姿を見せよ」
「あっ…」
信長様は、私の膝裏に手を回し、一気に抱き上げると、迷いのない足取りで寝所へと向かう。
色々と話をしなくては…そう思っていたのに、信長様の体温を身近に感じてしまった今はもう、もっと深い熱が欲しかった。
寝台の上にそっと降ろされると、すぐに信長様の身体が覆い被さってくる。
体重がかかりギシッと寝台が軋む音が、艶めかしい時間の始まりを告げるかのようで、緊張で胸の鼓動が早くなる。
額、目尻、頬、口の端と順番に、ちゅっ、ちゅっ、と啄むような口づけが落とされる。
「んっ…擽った、い…ふっ…」
耳たぶ、首筋、と降りていった可愛らしい口づけは、首筋でいきなりジュウッと強く吸い付くような激しいものに変わる。
「っ…あっ、ああっ!んんっ…」
カリッと歯を立てながら首筋に吸い付いた信長様は、じゅっじゅっと音を立てて強めに吸い上げる。
「あっ、やっ、あぁ…だめぇ…跡がっ…」
そこはギリギリ着物に隠れそうもない……
明日からの年始の謁見で、大勢の来客の前に出なければならないというのに……
「ふっ…明日から三日間の虫除けだ。貴様が誰のものか、はっきり見せつけておかねば、な…」
ニヤリと不敵に笑いながら、再び首筋に唇を吸い寄せる。
(んっ…そんなっ…虫除け、だなんて。恥ずかしい…でも、嬉しい…)
あからさまな独占欲を見せる信長様に、嬉しくて、キュウっと胸が締めつけられるようだった。