第67章 秘密の宴
今年もまた年の瀬が近づいている。
城内の片付けや新年の準備など、考えること、やるべきことが多くて、毎年のことながら、この時期は城内が忙しなくなる。
信長様は師走に入ってから特に政務が忙しく、執務室には報告書が引っ切りなしに運び込まれているようで、ここ数日は深夜遅くにならないと天主へも戻られていなかった。
そんな忙しいなかでも、京の御所や公家衆との付き合いもあって、渋々ながら何度か上洛もなさったりしている。
安土より移動が容易くなった反面、何かと言えば京から呼び出されることに、信長様は正直、辟易されているみたいだ。
(こんなに忙しいと、さすがの信長様もお疲れよね……)
ここ数日はお戻りが遅いこともあって、閨も共にしていない。
毎夜、私が一人で眠った後に天主に戻られる信長様は、朝も日が昇る前には褥を出られている。
ご政務が大事なのは理解しているけれど……それでも大好きな人と触れ合えない日々は寂しい。
せめて昼間に少しぐらいは逢いたいと、政務中の信長様にお茶を持っていくのが最近の私の日課なのだが……執務室には秀吉さんや三成くんもいたりして、二人きりでゆっくりお茶を飲む、という訳にもいかないのだった。
「……信長様…お茶をお持ちしました」
お茶が入った茶器をお盆に乗せたまま、入り口で執務室の中をひょこっと覗き込んだ。
信長様は一人、文机に向かい、書簡に筆を入れておられるところで、その周りには、書き終えて墨を乾かすために広げられたままの書簡が所狭しと並んでいた。
「朱里か…暫し待て、これはもうすぐ書き終わる」
「あっ、はい……」
信長様は私の方に視線を向けることもせず、手元の書簡にさらさらと筆を走らせている。
待っている間、手持ち無沙汰な私は、部屋の中をキョロキョロと見回してしまう。
(今日は秀吉さん達、いないんだ……じゃあ、少しぐらいはゆっくりお話しできるかな……)
淡い期待を抱きつつ、信長様の手元をぼんやりと見ていると、淀むことのない優雅な筆運びで書簡が認められていく。
(はぁ…いつ見ても綺麗な字だなぁ)
美しい文字が、さらさらと書かれていく様子に目を奪われる。
真剣な表情で、筆の先に神経を集中させている様子の信長様にも…心を奪われる。