第62章 嘘つきには甘い罰
数日後
軍議が終わり、信長様が退室された後の広間で、私は武将達に囲まれていた。
「あ、あの…みんな…?」
「朱里、あんた、信長様の弱点……知ってるんでしょ?」
家康の鋭い視線にたじろいでしまう。
「朱里、御館様に弱点なんて…本当にあるのか??
あるんなら……教えてくれっ!」
秀吉さんの必死の形相に、更にたじろぐ。
「秀吉さんまで……みんな、一体どうしたっていうの……?」
「御館様に限って、弱点などあるはずがないと思うが…万一あるのならば、御館様の右腕たる秀吉がそれを知らぬのは…まずいだろうなぁ?」
光秀さんが意地悪そうに笑う。
「っ…煩いぞ、光秀っ、お前は黙ってろ!朱里、どうなんだ?」
「ど、どうって…それは、その……」
(言えないっ…信長様が『くすぐられるのが苦手』だなんて…)
「朱里〜、信長様もいないんだし、正直に言っちまえよ。『魔王の弱点』なんて、面白いじゃねぇか?」
政宗はすっかり面白がって、秀吉さんの必死な様子を見て笑ってる。
(わ、笑い事じゃないっ…この状況、信長様が見られたら何て仰るか……)
「朱里様、秀吉様は信長様をお守りするために、信長様の苦手なものも含めて全て把握しておきたい、とお考えなのですよ」
三成くんの真面目な眼差しが、余計に心に痛い。
(ハイ…正論デスネ…でもっ、秀吉さんといえども、信長様の弱点を知られる訳にはいかないの…)
「あ、あの…みんな、何か勘違いしてない?信長様に弱点なんて…ある訳ないじゃない?」
「……………」
(うぅ…みんな、疑ってる…そんな目で見ないで…)
「……っ…私、信長様に呼ばれてるから……失礼しますっ!」
「っ…朱里っ〜!」
武将達が引き止める声を背中に聞きながら、広間から逃げるように出る。
(ごめんね、みんな…でも…信長様の弱点は私だけが知っていたいの。
私だけに見せて下さる…あの方の弱い部分も…全部が愛しいから)
小さな独占欲に胸を高鳴らせながら、あたたかな幸せに包まれていくのを感じた。