第10章 小さな恋敵
お市様たちが伊勢に戻られる日
信長様と一緒に城門までお見送りに出る。
「………市、息災でな」
「………兄上もお元気で。
朱里様とどうぞお幸せに……」
「………ああ」
信長様もお市様も口数少なく、けれど互いに物言いたげな雰囲気で、いつまでも出立出来ずに時が経っていた。
(このまま別れちゃうのかな…お互いの想い合う気持ちが分かるから、何とかしたいけど……)
2人を見守りながら、何もできない自分が歯がゆくて、ただただその場に立ち尽くすしかなかった。
「………兄上っ。」
輿に乗ろうとしていたお市様が振り返り、思い切ったように信長様に声をかける。
「……また、兄上に逢いに来ても、いいですか?」
「市……ああ、いつでも来い!待っておる」
晴れ晴れとした笑顔を見せる信長様を見て、心がふんわり暖まっていく気がした。