第10章 小さな恋敵
3人の姫たちの希望もあり、お市様たちはしばらく安土に滞在されることになり、私は姫たちの遊び相手を務めていた。
「朱里さま、次は貝合わせを致しましょう」
「茶々姉様、ずるい。次はカルタをする約束ですよ」
「はいはい、順番に致しましょうね」
姫たちは愛らしくて、一緒に遊んでいるとついつい時間を忘れてしまう。
「朱里様、いつも姫たちの相手をして下さってありがとうございます。ご迷惑ではありませんか?」
お市様が姫たちを見遣りながら、申し訳なさそうに言う。
「迷惑だなんてそんな。私、兄しかいなかったから、妹ができたみたいで嬉しいんです」
「……朱里様は小田原の北条家の姫君だそうですね。生まれ故郷から遠く離れたこの安土でお一人、お寂しくはないですか?」
「……初めは信長様に無理矢理連れて来られて……帰りたくて堪らなかったですけど。今は信長様のお側にいられて幸せです」
顔を赤らめて俯く私を、眩しいものでも見るかのように目を細めて見つめるお市様。
「……兄上を、愛してらっしゃるのですね」
「っ、はい。この世で一番大事な方です」
いつの間にか私達の側に来て会話を聞いていた江姫が、真剣な顔で私に問いかける。
「朱里さまは、伯父上の奥方さまなのですか?」
「っ、えぇ?奥方さま??って、いや、まだ、違う、っていうか、いずれは、っていうか、そのぅ」
突然の問いに慌てふためいてしまい、しどろもどろになる私をよそに、江姫は満面の笑みを浮かべて、宣言する。
「違うのですねっ?よかったぁ。江はもう少し大きくなったら、伯父上の妻になるのですっ!」
江姫の自信満々な様子に呆気に取られている私を見て、お市様が堪らず笑い出す。
「ふふふ、江は兄上が大好きなのです。……江を見ていると幼き頃の私を見ているようです」
「えっ?お市様……?」