第58章 いざ大坂へ
「ふっ…貴様は本当に海が好きなのだな。落ち着いたら、また堺へも連れて行ってやる…くっ…それとも、まさか、また泳ぎたいのか?」
「えっ、ええっ!?やだ、もう泳ぎませんよっ!」
(信長様、まだ覚えていらしたんだ、私が懐妊中に海に飛び込んだこと……)
「何だ、残念だな…くくっ…」
意地悪そうに笑うと、徐に私の肩を抱き寄せて、額にちゅっと口づけを落とす。
あっと思う間もなく膝裏に手を差し込まれると、軽々と抱き上げられた。
抱き上げられて急に不安定になった身体を支えようと、信長様の首に慌ててしがみつく。
「っ…信長様っ!?」
「部屋の中を案内してやろう…新しい寝所を見たくはないか?」
「えっ…あっ…やっ…でもっ…まだ…」
『まだ明るいです』と言いそうになった自分に恥ずかしくなる。
(やだっ…私ったら、何、期待してるの…信長様はお部屋を案内しようと言って下さってるだけなのに……っ…もの欲しそうに思われちゃったかな…恥ずかしい)
腕の中で頬を赤らめ小さくなる朱里を見て、信長は滾る雄の欲を抑えられそうもなかった。
(まったく…いつまで経っても可愛い奴…その表情一つで俺を狂わせることができるなど…貴様は思ってもいないのだろうな)
足早に室内に戻ると、寝所のある方へ足を向ける。
朱里を腕に抱いたまま、繊細な金細工が施された寝所の襖の取っ手に手を掛けると、スパンっと勢いよく開いた。
「わぁ〜…信長様、これって……」
朱里が驚きのあまり、小さく息を呑む。
部屋の中央には、大きな西洋式の寝台が置かれていて、寝台の上には柔らかな透ける素材でできた天蓋が付いている。
「西洋式の寝台だ。堺の商館にもあっただろう?」
「はい、でもこんな立派なものではなかったですし…天蓋も付いてて…はぁ〜すごく素敵ですっ」
「くくっ…貴様が喜ぶだろうと思い、異国より取り寄せたのだ。
どうだ…寝てみるか?」
「……えっ?あっ…はい」
(そのままの意味だよね?試しに横になってみるか、ってこと…だよね?)
存在感のある大きな寝台の中央に、壊れものを扱うようにそっと横たえられると、すぐさま信長様の身体が重なる。
ギシッと寝台が軋む音が、何だか艶かしい。
「……えっ?あ、あのっ…信長様?」
恐る恐る下からお顔を覗き込むと、ニッと口角を上げて不敵に笑う信長様と目が合う。