第58章 いざ大坂へ
信長様の先の上洛から数ヶ月が経ち、内装まで全てのしつらえが整った大坂城に、いよいよ移る日がやってきた。
城移りの日とはいえ、調度類や衣装類などの荷物は既に、秀吉さんと三成くんの手配によってだいぶ前から少しずつ移動してあったので、当日は最小限の荷物とともに身一つで移動するのみだ。
それでも、『城移りって大変なんだな』と溜め息が出るほどには、大層な行列ではあるのだけれど……
信長様はこれまでにも、安土城の前には岐阜、小牧山、清洲、那古野、とその時々の政の状況に応じて居城を移されてきたらしく、城移りも手慣れたものだった。
この戦国の世では、信長様のように頻繁に居城を移す大名はむしろ珍しいのだ。
(私なんて、小田原から安土へは、ほとんど身一つで来たようなものだし、本格的な城移りはこれが初めてだけど……信長様の正室として、落ち着いてしっかり皆を差配しなくちゃっ)
ーちゅっ ちゅぷっ ぱくっ
「んっ…あっ…んっ、ダメです、信長さま…人目が…」
もう間もなく大坂の地へ入ろうかというところである。
馬上で、私を前に乗せて腰に手を回した信長様は、身体をぴったりと密着させて、先程から絶え間なく耳元に熱い吐息を注ぎ込んでくる。
その行為はどんどん過剰になってきていて……耳朶を舌で甘く愛撫されて堪えきれなくなってきた私は、今にも腰から崩れ落ちそうだった。
(ん"ん"っ!あっ…やっ…ん…信長さまったら…皆に見られちゃうのに……)
信長様の胸に身体を預けながら、顔だけ後ろに向けて涙目でキッと睨むと、逆にニッと口角を上げた意地悪な笑みを見せた信長様にすかさず唇を塞がれる。
「ん"ん"んーっ…ふっ、くっ、はぁ…あっ…」
ちゅっちゅっと緩急をつけて唇を吸われ、舌先で唇の縁をくるりとなぞられる。
それだけで、もう頭の中まで痺れたようになってしまい、思考が覚束なくなって、とろんと蕩けた目で信長様を見つめてしまっていた。
「くくっ…そんな蕩けた目で俺を煽るとは…奥方様はいやらしいな」
「んっ…もぅ…ひどい…」
(天下人の正室らしく、信長様の妻に相応しい、威厳のあるところを見せよう、って安土を出る前に気合いを入れてきたのにっ……)
「ふっ…俺は貴様の緊張を和らげてやったつもりなのだが?
貴様が、らしくもなく気を張っているようだったのでな」
「っ…信長様…」