第54章 記憶
「ふっ…どんな手を使っても構わんぞ。記憶のない俺に抱かれるのは貴様も嫌だろう?」
「っ…はいっ…頑張ります…」
(………きっと、大丈夫。必ず思い出させてみせる。そう信じるしかない。だって私達は、一度、確かに結ばれたんだから)
そして、信長様の記憶を取り戻すために、奮闘する日々が始まったけれど………………
「俺の勝ちだな」
「っ、あ………!」
(いつの間に!?)
その日、私は信長様に囲碁勝負を申し出たものの、あれよあれよと言う間に連敗を重ね、肩を落としていた。
結華と信長様が囲碁をするようになるまでは、よく二人で対局していたのだ。
信長様は安土一お強いから、私が勝負に勝ったことは一度もなかったけれど……それもまた二人の思い出だった。
何度もしてきた囲碁の勝負なら、記憶の片隅に残っているのじゃないかと思ったのだ。
「あの、何か思い出しましたか?」
「いや。………………だが、一つ分かったことならある」
「! 本当ですか!?」
「貴様は、思ったことがすぐ顔に出るな。それでは勝ってくださいと言っているようなものだ」
「うぅ……面目ない」
散々勝負に負けた上、単純だ、と言わんばかりの指摘に落ち込み、項垂れる私の頭上に、楽しそうな笑い声が降ってくる。
「ふふふっ…さて、今宵はどこを奪おうか…?」
(っ…そうだった、私、信長様に身体を…)
熱を帯びたような深紅の瞳が、舐め回すように私の全身を隈なく見回していく。
値踏みされているような気分になり、落ち着かないでいると、
「……では、今宵はここにする」
そう言うと、信長様は私の右手を掬いあげ、指先にチュッと口づけた。
「っ…あっ………」
ーちゅっ ちゅっ ちゅぷっ ちゅるんっ
指の一本一本に丁寧に舌が這わされる。
指の付け根の股の部分を少し開きながら、順番にちゅうっと強めに吸っていかれると、あまり触れられたことのない部分だからか、ひどく感じてしまう。
「んっ…や…だ…あぁ…」
「…………………愛らしい声で啼くのだな…もっと聞かせろ」
ーちゅぽっ じゅぽっ ずぶずぶっ
舌を絡めたままの人差し指を、ぱくっと咥えるとジュボジュボッと唾液を纏わせて出し入れされる。
信長様の紅い唇から見え隠れする濡れた指と淫らな水音がひどく卑猥で堪らない。
「…あっ、あぁっ…信長さま…」