第51章 薄明の悪戯
「…朱里……朱里、起きよ」
優しく名を呼ぶ声と、目蓋に押しつけられる唇の柔らかな感触に、落ちていた意識が徐々に浮上する。
「んっ…んんっ…のぶなが、さま…?」
重たい目蓋を無理矢理に開いて見ると、すぐ近くに信長様の整った綺麗なお顔があって…目が合うと口角を上げてにっこりと微笑まれた。
「あっ…」
意識を失う前の濃密な情事の記憶がよみがえり、恥ずかしくて信長様の顔を直視できず、思わず目を逸らしてしまった。
「…貴様…何故、目を逸らす?」
「やっ…だって…恥ずかしくて…あんなに…その…」
「貴様から誘ったのだぞ…寝ている俺を襲うなど…くくっ…大胆になったものだな」
信長様はニヤニヤと笑いながら、私の唇を人差し指でツーっとなぞっていく。
「んっ…だって…信長様のせいですよ…眠ってるのに、あんなに…おっきくして…っ…」
「…ん?」
私の言葉に、一瞬、眉を顰めた信長様は『あぁ、なるほどな』と納得したように独りごちながら、ニヤニヤ笑いのまま私を抱き締める。
「可愛いな、貴様は。俺のが勃っていたから慰めてくれたのか?
あれは朝勃ちだ、男の生理現象みたいなものだ。健全な男なら朝は誰でもあんな風になる」
「??そうなんですか??」
(殿方の身体って…複雑なのね…)
「ふっ…俺はてっきり貴様が欲求不満なのかと思ったぞ。昨夜は俺の方が先に寝てしまったからな」
「っ…やだっ、そんなんじゃ…ない…こともない…ですけど…?」
「っ…!貴様、あまり愛らしいことばかり言うでない…また抱きたくなる」
抱き締める腕に力が篭り、首筋に熱い吐息がかかる。
「やっ…もうっ!ダメですよ…そろそろお支度を…」
このまま抱き締められているとまた流されてしまいそうで、腕の中から逃れようと慌てて身を捩るけれど、信長様にはそれすら楽しいようで、子供のようにすりすりと身体を擦り寄せていらっしゃる。
(っ…もう…困った方…でも大好き…)
朝陽が射し込み、明るくなった部屋の中で愛しい人と戯れ合う、今この時は私にとって何にも替えがたい至福の時間だった。
(いつまでもこんな風に二人で戯れ合っていたい。
子供がいても、年を経ても、いつまでも…ずっと……)