第50章 花惑い
粉のような雪が緩やかに、絶え間なく空から降りてくる。
天主の廻縁に出て、空から舞い降りる白い華に手を伸ばし、そっと触れてみる。
一瞬のひんやりとした冷たさとともに、儚くも消えてゆく雪の華
季節外れの三月の雪は、ひらひらと舞い降りては消えてゆき、いつまでも飽きずに見ていられた。
もう四半刻ほどもそうして見ていたせいで、さすがに冷えてきていたのか、我知らず、ふるりと身体が震えた。
「…朱里、いつまでそうしている?風邪を引くぞ」
少し呆れたような、でも優しく心配するような声とともに、後ろから温かな腕にふわりと抱き締められて、身体だけでなく心までがじんわりと温かくなる。
「信長様!」
「冷えると思ったら今朝は雪か…もう三月だと言うのに…この分だと桜(はな)はまだ先だな…」
「ふふ…お花見、結華も楽しみにしてます。今年は私も宴のお料理を作るの手伝うつもりです。信長様のお好きなもの、いっぱい作りますから楽しみになさって下さいね!」
「ふっ…貴様の手料理か、楽しみだな…だが、今は…こちらを食べたいが?」
熱い吐息とともに耳朶をかぷっと食まれて……
「っ…あ…ん…信長さま…」
「身体が冷えておるな…温めてやろうか?」
氷のように冷たくなっていた耳朶は、信長様の熱い唇が触れた箇所から徐々に熱を帯びていく。
ーちゅっ ちゅぷっ ぢゅっ じゅっ
「あっ…はぁ…ん"ん"っっ」
熱い唇が首筋に強く押しつけられて、甘く吸い上げられる。
鎖骨の辺りを吸われながら、長い舌でチロチロと舐められていると、耳の後ろがゾクッと震えて感じてしまう。
長い指に顎を捉えられ、顔だけ後ろを向かされると、仕上げのようにチュッと口づけが降ってきた。
「ん…はぁ…はぁ…」
口づけだけで熱くなり、息が上がってしまった私に、信長様は口の端を上げて満足そうに微笑むが……
「っ…くしゅんっ!」
(やだ…ほんとに風邪引いちゃったかな?)
急に寒気を感じて震える私の身体を、信長様はいきなり横抱きにして室内へと歩き出す。
「あっ…やっ…降ろして、信長さま…」
「ならん。褥に戻るぞ。起きるにはまだ早い…俺が温め直してやる」