第48章 満たされぬ心
五年後 正月
「明けましておめでとうございます!」
広間に勢揃いした家臣達より正月の挨拶を受ける。
毎年変わらぬ元日の朝の風景
天下布武を成した今、さしたる戦の懸念もない日々
隣には、変わらず美しい妻と、年ごとに愛らしさが増す娘がいて…信長は、これまで味わったことのない程の満ち足りた心地がしていた。
「大儀である。皆の日頃の働きにより、戦もなく、天下は平穏に保たれておる。今年もより一層の働きを期待しておるぞ」
「ははっ」
秀吉ら重臣達から一通りの挨拶を受けると、後は無礼講の宴の始まり。
戦の懸念がなくなり、各々の領地へ戻っていた政宗や家康も、正月ということで安土へ挨拶に来ている。
久しぶりに武将達が揃い、朱里は嬉しそうだ。
「政宗、久しぶりね!今日の宴のお料理、私も少し作ったのよ。これとこれ…後で食べてみてね」
「家康のは、辛めの味付けにしておいたよ!唐辛子も用意してるから、遠慮せずかけてね」
二人が領地へ戻った後、口には出さなかったが、元気がないのは明らかだった。
小田原から安土へ来て以来、当たり前のように武将達に囲まれて過ごしてきたから、やはり寂しかったのだろうと思う。
武将達に囲まれて笑顔の絶えない朱里の姿に、微笑ましくもあるが……些かの嫉妬も抱いてしまう。
(……今日ばかりは仕方あるまい…我慢してやるか)
「父上?」
モヤモヤと悩ましい心を持て余している俺に、純真で全くの汚れもない只々愛らしいばかりの声がかけられる。
常ならば天真爛漫に振る舞う、四歳になった結華は、今日は大人ばかりの席で緊張しているのであろうか、もじもじとしながら俺の方を窺っている。
ニヤリと笑んで、胡座をかいた自身の膝をトントンと叩いて合図してやると、ぱぁっと顔を輝かせて俺の腕の中に飛び込んでくる。
膝の上に座らせて後ろから抱き締めると、陽だまりのように優しく、甘い匂いがして…
(本当に愛らしい…娘がこれ程に愛らしいものだとは、思いも寄らなかった)