第43章 決戦
「……んっ…信長さま…?」
腕の中で身動ぐ気配に、はっと我に返ると、まだ寝惚けた様子の朱里は俺の胸元に頬を寄せて、すりすりと猫のようにすり寄って来る。
(くっ…なんと愛らしい)
あまりの可愛らしい仕草に、胸の鼓動がうるさく騒ぐ。閨の中とはいえ、こんな風に甘えられるのは初めてだった。
「……起きたのか?身体は辛くはないか?どこか痛いところなどは?」
「ふふっ…大丈夫です。少し怠いですけど…お腹も痛くはないですし…」
そう言って微笑みながら、少し膨らんだ腹をそっと撫でている。
(変わりないようでよかった…昨夜は少し激しくやり過ぎたからな)
「ひああっ!」
腹を撫でていた朱里が突然、素っ頓狂な声を上げるので、ぎょっとする。
「どうした??」
(何なのだ?腹の子に何か良からぬことか?)
「の、信長様…今、お腹の中がグニャってなって…う、動きました…御子が、動きましたよっ!」
「何だと?朱里、俺にも触らせろ」
予想外のことに内心慌てながら、朱里の腹に手を置いて優しく摩ってやっていると…程なく腹の中から、ぽこっという微かな動きを感じることができた。
(これがそうなのか?本当に微かだが…確かに動いた。これが、子がここに生きている証か…)
「うっ…うぅっ…ひっく…」
生命の不思議に感銘を受けていると、抑えた嗚咽が聞こえてきて、朱里が泣いていることに気づき、内心また慌てる。
「っ…大丈夫か?何故、泣く?」
「だっ、だって…本当はずっと不安で…攫われた時、眠り薬を嗅がされて…船にも馬にも乗っちゃったし、自分から海にも飛び込んじゃったし…。その間、この子、全然動かなくて…家康にはそろそろ動くよ、って言われてたのに、私のせいでこの子に何か悪いことが起こっちゃったんじゃないかって…不安で…」
ずっと一人で心の中に不安を溜め込んでいたのだろう、堰を切ったように想いを吐き出す姿に、堪らなくなってその華奢な身体を強く抱き締める。
「っ…すまん。気付いてやれず、一人で心細かったであろう?すまない、朱里…」
「うっ…くっ…信長様…」
「これからは何でも俺に言え。どんな些細なことでも、貴様を悩ますものは俺が許さん。貴様も子も俺が必ず守ってやる」
抑えていたものを吐き出すように泣き続ける朱里を胸に抱きながら俺は、大切なものを守る決意を新たにしたのだった。