第43章 決戦
東の空が白み始めた頃、信長は眠りの中から意識を浮上させる。
(…もう朝か…久しぶりによく寝たな)
湯殿での情事の後、商館の一室の西洋式の寝台の上で、朱里を腕の中に抱き締めるとすぐ眠りについた。
朱里が攫われてから今日までろくに眠れていなかったことと、溜まりに溜まった欲を吐き出した疲労感とで、横になった途端に激しい睡魔に襲われた。
おそらくは、朱里より先に眠りに落ちたのだろうが、記憶がない。
(ふっ…我ながら隙だらけだな)
口の端を歪めて苦笑いしつつ、腕の中で穏やかな寝息を立てる朱里の額に、そっと唇を寄せて、触れるだけの口づけをする。
寝台に寝転んだまま、高い天井を見つめながら、一人つらつらと物想いに耽る。
此度の戦、織田は勝った。
中国、四国を平定し、天下布武は、もはや為されたも同然。
此度の戦の結果、織田家に叛旗を翻す者は、当分現れないだろう。
元就は……戦のあと、その消息は知れない。
あの時、俺は奴を追わなかった。
見逃せば、奴はまた朱里の前に現れる、そんな予感が過ったが、何故か追撃の命令は出せなかった。
(朱里を見る元就の目…あれは単なる人質を見る目ではなく、愛しい女を見る目だった…朱里は気づいてないようだったが…。
だが……何度現れようとも、二度と朱里には触れさせん)