第1章 出会い
北条氏との会見も無事終わり、大広間では盛大な宴が催されていた。
上座でゆるりと脇息に身体を預け、次々と杯を受ける信長であったが、ふと目線をやった先に、一際目を引く女の姿があった。
鮮やかな蝶の刺繍が施された紅色の打掛を纏い、ふわりと微笑む姿…
(あの女、先程の…)
信長の視線に気付いた秀吉が、すかさず傍の北条氏に問いかける。
「北条殿、あちらの女子はどなたですか?」
「これは、ご挨拶が遅れておりましたっ。あれは我が娘の朱里(しゅり)でございます。朱里、こちらへ来て信長様にご挨拶せよ」
「信長様、お初にお目にかかります。朱里と申します」
「いや、初めてではなかろう?」
信長は懐から取り出した鉄扇で、朱里の顎をクイっと持ち上げて不敵に笑ってみせた。
「っ…いいえ、初めてでございます」
信長の鋭い視線から目を逸らすことなく、朱里も微笑んでみせる。
気丈な態度を見せつつも、僅かに震えているのが、愛らしい。
「ふっ、そうか?まぁ良い。朱里、酌をせよ」
「は、はい」覚束ない手付きで盃を信長に差し出そうとするが、
「盃はいらん。貴様のその唇で酌をせよ」
そう言うと、戸惑う朱里の手をとり、素早く引き寄せる。
細い腰に腕を回し、唇が触れ合う距離まで顔を近づけると、
「っ、いやです。私は盃じゃありません!お戯れはおやめ下さい」
信長の身体を精一杯の力で押し返し、気の強そうな瞳でキッと睨みつける。
(この俺に抗うとは、面白い。この女、ますます興をそそる)
(このお方が…第六天魔王と呼ばれる、織田信長様。燃えるような紅玉の瞳、恐ろしいのに、何故だか目が離せない)
これが私と信長様の初めての出会い
この時はまだ思っても見なかった
この方をこんなにも愛し、この方にこんなにも愛されることになるなんて