第43章 決戦
船は穏やかな航海を続け、やがてどこかの港に停泊したようだった。
そこからは馬で移動するらしく、私は当然のように元就の馬に乗せられる。
後ろから私にぎゅっと密着して手綱を握る元就に、お腹の膨らみが分かってしまうのではないかと気になって仕方なく、
「っ…あの…私、一人で乗れますけど…」
「…馬鹿か、お姫さん。大事な人質を一人にする訳ねぇだろ?黙って掴まっとけ、落ちるんじゃねぇぞ」
ただでさえ懐妊中に馬になんて乗ってもいいんだろうか、と気が気でないのに…元就は私の心配なんてお構いなしに、わざと耳に唇が触れそうな距離で囁いてくる。
「っ…近いです、もっと離れて…」
「ふっ…初心な反応だな。男を知らねえ訳でもあるまいに…くくっ…」
それからも元就は馬上で戯れに私に触れながらも、軽快に馬を進めてゆき、やがて山の中にある城に到着した。
「……この城は…?」
「吉田郡山城…毛利の城だ」
(吉田郡山城?毛利の城?っ…でも、光秀さんは軍議の時に、今は織田の城だって言ってたけど…織田の目付が入ってるって…)
「…何か言いたそうな顔だな。そうそう、この城に居座ってやがった織田の家臣は全員殺してやったぜ」
「っ…ひどい…」
「おいおい…この世は殺るか殺られるかだろ?油断してる方が悪いんだ。弱い奴は殺られるしかねぇんだよ」
顔色一つ変えず、淡々と言う元就の紅い瞳からは何の感情も読み取れない。
「元就さんは…信長様と戦をして信長様を倒したいんですか?じゃあ、そのあとは?信長様を倒して天下布武を阻止して……その後どうしたいんですか?
信長様は日ノ本を一つにまとめ、争いのない平和な世の中を造ろうとしてるのに……」
「はっ!争いのない平和な世の中だと?そんなもんは、まやかしに過ぎねぇ。信長に支配される世の中、の間違いだろ?
力のある者がない者を支配する、その構図はどうやったってなくならないんだよ。大義だなんだと大層なもんを掲げてたって、所詮は支配欲の塊だ。誰もが平等に、なんて夢物語もいいとこだぜ」
元就は吐き捨てるように言うと、この話は終わりだというかのように視線を逸らし、私を引きずるようにして城の中へと入っていった。
(信長様は力で人を支配したいなんて思っておられない。信長様の目指す天下布武はそんなんじゃないのに…)