第41章 幸せな時間
「……信長様?」
険しい顔で、咎めるような視線を向けられて、何とも言えない心地がする。
「はぁ…光秀だ」
「………は?」
「光秀が置いていったのだ。彼奴、堺へ探索に出ていたのだが、土産だとか言って置いていきおった」
(『御館様の夜のお慰みに…』などとふざけたことを言っておったが…)
「ゃ…だからって、あんなもの見なくてもいいじゃないですか!」
(結構しっかり凝視してましたよね??)
「いやいや、一応開いてみただけだ。中はよく見ておらん!」
「うそ!しっかり見ておられたじゃないですかっ!やましいことがないなら、隠さなくてもいいでしょう?あんなに必死になって隠すなんて、怪しすぎます!」
「うっ……貴様…なかなか手厳しいな」
プイっと拗ねたように横を向いて、頬を膨らませている様子が堪らなく愛らしくなって……思わずぎゅっと腕の中に閉じ込めていた。
「やっ…信長様?…はぐらかさないで…」
「…悪かった。だが…枕絵よりも何よりも、生身の貴様が一番好いに決まっておるだろう?だから、もう機嫌を治せ」
耳元に唇を寄せて甘く囁く。
「ん…もぅ…知りません…」
朱里の強張っていた身体から力が抜けて、身を委ねてくる気配を感じる。
(まもなく秀吉が来る刻限だが……願わくば、もう暫くこうして朱里をこの腕の中に閉じ込めていたいものだな…)
ささやかだが幸せな時間
小さな言い争いでさえも愛おしい
今はただ、こんな時間が長く続けばいいのにと願わずにはいられなかった。