第41章 幸せな時間
それからまたひと月ほど経つと、あんなに辛かったつわりが嘘のようになくなり、その反動のように今度は食欲が出て困るぐらいになっていた。
今日も朝餉の席で、箸が止まらずあっという間に完食してしまう。
「ん〜、美味しいっ!あ、あの…政宗?おかわり…」
「おー、どんどん食え、食え。一時はどうなることかと思ったが、食欲が戻ってよかった!痩せちまった分、取り戻さないとな。抱き心地悪りぃと、信長様に怒られるぞ!」
「やっ…なんて事言うの……」
「いやはや、小娘のそのぽっこり出た腹は、御館様の御子のせいか?それとも…ただの食い過ぎなのか?」
「光秀、お前こそなんて失礼なこと言うんだっ!朱里、気にせずに好きなだけ食べろよ。御子の為にも、しっかり食べて体力付けないとなっ!
あ〜楽しみだなぁ…御館様の御子…」
「秀吉さん…一人の世界に行かないで下さい…。朱里、朝餉の後、また診察するから、部屋で待ってて」
「朱里様、またお部屋に書物をお届けしますね。私が厳選した兵法書を……」
「三成、そんなもの読ましてどうするの?もっと穏やかな書物にしてやって」
わいわいと朱里を囲んで楽しそうに話をする武将たちを、信長は上座で一人黙って見守っている。
政宗や光秀に揶揄われた朱里は、困ったような、でも愉しげな表情を浮かべて花が溢れるような笑顔を見せている。
久しぶりに見るその笑顔に、心が浮き立ち、惹きつけられる。
(つわりとやらは相当辛かったようだが…元気を取り戻したようでよかった。このまま何事もなく産み月を迎えてくれれば良いが…)
(……それにしても…懐妊が分かってから、朱里は変わったな。以前から意思の強い女子だったが…子を宿して益々強くなったような気がする。見た目も変わった。食欲が落ちて細い身体が更に痩せてしまったせいか、それとも子が腹にいるせいなのか、面立ちがなんとも妖艶になって…唆られる)
しばらく閨を共にしていないせいか、その艶めかしい姿を見ているだけで己の欲望がむくむくと首をもたげて、近頃は自制できずに、正直、難儀していたのだった。
(早く朱里を愛でたいが…こればかりは思うようにはいかんな)