第40章 萌芽〜めばえ
「城下の氷室から取り寄せた。氷だから滋養はないが、口当たりは良いだろう?身体を冷やすといかんから、一度に沢山は無理だが…食べられるようなら、また持ってきてやる」
「ありがとうございます…いただきます」
氷をひと匙すくって口に入れると、ひんやりと冷たくて黒蜜の甘さも丁度よかった。
一口食べるごとに暑さが和らぎ、身体の怠さを忘れるような心地がした。
「美味しいっ!…信長様、わざわざありがとうございます」
「いや…大したことではない。つわりとは…難儀なものなのだな」
信長様は、自分が辛いかのような苦しそうな顔をされる。
「そうですね…私も自分の身体が自分のものじゃないみたいです。これからもっと色々変わっていくのかなぁ……
家康に聞いたんですけど、御子の産まれ日は如月の頃だそうですよ。ふふっ…男の子かなぁ、女の子かなぁ…楽しみですねっ」
「…貴様は早くも母の顔だな」
信長様が微笑みながら、でも少し寂しそうに言われたのが気になって……
「…子が出来ても、私の一番は信長様ですよ」
そっと手に手を重ねて気持ちを伝えると……
「ふっ…体調が良くなったら存分に愛でてやる。楽しみにしておけ」
ニヤッと意地悪そうに口角を上げて笑われて、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「やっ…もうっ!」
体調が優れなくなってから、信長様には心配をかけてばかりだ。
比較的気分がいい日は、夜、一緒の褥で寝むこともあるけれど、家康からはまだ夜伽はしてはいけないと言われていて……信長様はただ、朝まで私を抱き締めていてくれる。
信長様に寂しい思いをさせてしまっているのではないか、と思いながらも身体が思うようにならなくて、信長様の優しさに甘えてしまっていた。
(家康は『身体の不調やつわりは徐々に治まってくる』と言ってた。それまで……もう少し頑張ろう。この子を元気に産むためにも…私が頑張らなくちゃ…)