第40章 萌芽〜めばえ
梅雨が明け、蝉の鳴き声が忙しなく聞こえ始めて夏の暑さが本格的になってきた頃、私は体調を崩すことが多くなっていた。
どこがどう悪いという訳ではないのだけれど、何となく身体が怠く、暑さのせいでか、少し動いただけでも息切れを感じることもある。
元々暑さに弱い性質で、夏の時期になると、毎年暑気あたりで具合が悪くなっていたこともあり、今年もまたそうなのだろうと諦めにも似た気持ちで鬱々と日々を過ごしていた。
「千代、悪いけど白湯を一杯もらえるかしら?」
傍らで扇子で風を送ってくれている千代に声をかける。
「はい、すぐお持ちします……姫様、大丈夫ですか?今年は例年以上にお辛そうですけど………」
心配そうに様子を窺う千代に、力なく微笑みながら答える。
「……そうなのよ、今年は本当に辛いわ。できれば昼間からでも横になっていたいぐらい…」
夜も暑さでなかなか寝付けないこともあってか、ここ数日は昼間でも強い眠気を感じることが多かったのだ。
信長様も、体調の悪い私を気遣って下さってか、最近は夜伽もできていないでいる。
(信長様に触れたい…触れて欲しいけど…)
思うように動かせない自分の身体がもどかしくて、身体だけでなく心も辛くて、苦しかった。
「朱里、居るか〜?菓子作ったから、持って来てやったぞ〜」
襖をトンと開けて、政宗がひょっこり顔を出す。
手に持っているお盆の上の菓子皿からは、ほかほかと湯気が上がっている。
「政宗っ!いらっしゃい、どうぞ」
「おー、体調、どうだ?メシもあんまり食ってねぇんだろ?
暑いからって冷たいもんばっか食うのも良くないぞ。
ほら、蒸したての饅頭だ。暑い時には熱いもんを食うのも、暑気あたりには良いんだぞ」
言いながら、湯気の立ち上がるお饅頭を一つ渡してくれる。
「…ありがとう。じゃあ頂くね」
本当は朝からあまり食欲がなくて、今日もろくに食べていなかったのだけれど、政宗の気遣いが嬉しくてお饅頭を受け取るために手を伸ばす。
………が、立ち上がる湯気の匂いを吸い込んだ途端、胸の奥から急激に迫り上がってくる吐き気を感じて、思わず手を止めた。
(うっ…気持ち悪っ…何で??)
「朱里?どうした?」