第39章 紫陽花の寺
雨足はどんどん強くなり、強い風と相まって、外はいつの間にか嵐のようになっていた。
「このままでは明日まで止まぬかもしれませんな。間もなく日が落ちますし、この雨の中、城へ戻られるのは危険では?
今宵はこちらに泊まっていかれては如何かな?」
和尚様の言葉に、少し思案するように黙っていた信長様は、やがてゆっくりと口を開いて…
「…そうだな…では、お言葉に甘えさせて頂こう。
沢彦、久しぶりに囲碁の相手をしろ。俺と互角に渡り合えるのは、貴様ぐらいしか居らんからな」
「ほぉほぉ…囲碁の腕前では、今や信長様は安土一と聞いておりまするぞ。もはや拙僧にお相手が務まりますかな?」
(信長様、和尚様と一緒にいらっしゃると、本当に楽しそう。
思いがけない雨のせいで、お城には帰れなくなってしまったけど、日々お忙しい信長様には、良い息抜きになるかもしれないな)
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精進料理の夕餉を頂き、囲碁をされる信長様と和尚様と別れて、今宵の寝所にと用意してもらった部屋へと戻る。
部屋に入ると、褥が二つ間隔を開けて敷かれており、残念なような、ほっとするような……複雑な気分になる。
(はぁ〜ここはお寺だもん、さすがに夫婦とはいえ男女が同じ褥で寝る訳にはいかないよね?)
褥の上にぺたんと腰を降ろして、外の雨音に耳を傾ける。夜になっても雨足は弱まらず、庭に面した障子の向こうからは、ざぁーざぁーと雨が激しく降る音が聞こえてきていた。
(……ん、一人じゃちょっと寂しいな)
信長様のぬくもりが恋しくて、褥の上で膝を抱えてその上に頭を乗せる。
(……信長様…まだかな?)
寂しさを感じ始めたその時………
障子越しに、どんよりとした暗闇に突如として『ピカッ』っと閃光が走る。
あっと思った瞬間、空を真二つに裂いたかと思われるほどの大きな音を立てて雷鳴が鳴った。
ピシャッー! ゴロ ゴロ ゴロ ゴロッ!
「…っ、きゃあっ…あぁ…」
大岩が転がるような、地の底から湧き上がってくる地響きのような……ゴロゴロという低い音が空から落ちてくる。
「ひっ…ぃゃあ…」
慌てて両耳を塞いで褥に突っ伏す。両目をぎゅっと固く閉じて、恐ろしい雷鳴が過ぎ去るの待つが、激しい落雷は、短い間隔を置いて、再び襲ってきた。
ピカッ! ゴロ ゴロ ゴロ ゴロッ パシーンッ!