第5章 湯治
「信長様…」
初めて明かされる信長様の壮絶な過去と心の内に、かける言葉が見つからない。
「この戦国の世では裏切りは日常茶飯事だ。血を分けた肉親であってもな。信じて裏切られることにはもう慣れた」
(慣れた、ってそんなはずないっ。謀反の知らせを聞く時、いつもほんの一瞬僅かに表情を曇らせる信長様を私は知ってる。周りの人はたぶん気付いてない。信長様はどんな時でも余裕たっぷりで笑っていらっしゃるから…)
「朱里…貴様は…貴様だけは特別なのだ。貴様が笑えば俺の心は満たされる。貴様の泣き顔を見るのは耐え難い苦痛だ。………………この気持ちは何なのだ…このような気持ちを俺は知らん」
(っ、信長様は自分で自分の温かさに気付いてらっしゃらないんだ)
(好きだと言って下さらなくても、こんなにも大事に想って下さってたんだ…)
「ごめんなさい……私、『好き』と言って下さらないのは、本当は愛されてないからだと不安になってしまったのです。信長様はとても温かく、こんなにも私を大事に想って下さっていたのに…………私は…信長様にちゃんと愛されてます」
溢れ出る想いのままに信長様を抱き締める。
信長様も私をきつく抱き締め、互いに深く求め合う。
「朱里…貴様の全てが欲しい」
切ない声で告げられて身体の奥が反応する。
「っ、は…い、貴方に私の全てを捧げます。 愛しています、信長様」