第32章 初夜
祝言の夜
先に湯浴みを済ませて真新しい白絹の夜着に着替えた私は、天主で信長様が湯浴みから戻られるのを待っていた。
(どうしよう…何だか緊張してきた…)
そわそわと気もそぞろに落ち着かなくなり、外の空気でも吸おうと立ち上がりかけたその時、襖が開いて信長様が入ってこられた。
突然のことに慌ててしまい、ギクシャクとぎこちない動きで座り直す私を見て、怪訝そうな顔をする信長様。
「……くっ、貴様、何をしている?」
「えっ、あっ、いえ、別に、何も…」
(うっ、恥ずかしい…)
湯上がりの信長様は、さっぱりとした顔で、洗い髪から少し水滴が落ちて、夜着の肩口を濡らしている。
いつもと違う白絹の夜着姿の信長様は、男の色香が匂い立つようで堪らなく艶めかしい。
湯浴みで火照った身体を冷ます為に寛げた襟元から逞しい胸板が見えて、思わずドキドキして、不自然に目線を逸らしてしまった。
(いつも以上に色気が半端ないんだけど…
胸がドキドキして…信長様に聞こえてしまったらどうしよう…)
扇子で襟元に風を送っていた信長様は、チラッと私を見てから不意に腕を伸ばして私の身体を引き寄せた。
「っ、きゃっ」
突然で驚いて、大きな声を上げてしまった私に構わずに、そのまま膝の上に乗せて顔を近づける。
「ふっ、緊張しているのか?愛らしいな」
鼻先が触れそうな距離で甘く囁かれて、恥ずかしさで一気に体温が上がったのを感じる。
「その初々しい姿、初めて抱いた日と変わらぬな。
…貴様は、いつまで経っても愛らしい」
蕩けそうなぐらい甘い声で囁きながら、頬にチュッと口づける。
「っ、信長様…」
「今宵は初夜だ。殊更大事に抱いてやろう」