第31章 祝言
「では、皆さんの前で誓いの口づけを…」
神父様に促されて互いに向かい合うと、信長様の顔がゆっくりと近づいてくる。
(皆の前で恥ずかしいけど……
軽く触れるだけの口づけ、って聞いてるし…)
目を閉じて唇が触れるのを待っていると、いきなりグイッと腰を引き寄せられて、そのまま激しく唇を奪われた。
息が出来ないほど強く吸い付かれ、舌を絡めて奥まで深く貪るような口づけが、思考を奪う。
礼拝堂の中の空気が一瞬にして濃密なものに変化したような気がした。
『んんんっ…っ、』
(の、信長様??)
頭の奥が痺れて立って居られなくなってきたその時、チュッと音を立てて、熱い唇が離れる。
『っ、はぁ…』
予想外の激しく甘い口づけに揺れる鼓動を抑えながら、信長様を見つめると、悪戯が成功した子供のような得意げな笑顔が返ってくる
(もう!……やっぱり信長様には敵わないな…
でもこういう強引なところも…好き)
周りの反応が気になって、恐る恐る皆の方を見ると……
秀吉さんと三成くんは少し顔を赤らめて視線を逸らし、政宗と光秀さんはニヤニヤ笑いが止まらず、家康は呆れた顔で小さく溜め息を吐いていた。
「お二人はこれにて晴れて夫婦となられました!」
神父様の高らかな宣言を受けて、堂内に大きな拍手が巻き起こる。
「御館様、おめでとうございます!」
「朱里様、おめでとうございます!」
鳴り止まぬ拍手と祝福の言葉に包まれながら、幸せを噛み締める。
いつの間にか、信長様の暖かい手が私の手を強く握ってくれていた。
(この手を決して離さずに、二人で歩んで行こう。
信長様の、この手が、この心が、冷たく凍えてしまうことがないように、お傍で暖めてあげられたら……)
隣に立つ愛しい人を見上げると、全て包み込むような慈愛に満ちた優しい微笑みが向けられる。
この上ない幸せな気持ちに満たされながら、繋ぐ手にそっと力を込めた。