第29章 決意
誰もが言葉を発することが出来ないまま、長い沈黙の時間が流れる中、家老達が居住まいを正して口を開いた。
「……御館様、良きご伴侶を…見つけられましたな。
朱里様、これまでのご無礼、どうかお許し下さい。
朱里様の御館様への強い想い、我らにもよう分かりました。
………御館様を、よろしくお願い致しまする」
そう言って、家老達は一斉に頭を下げた。
隣で朱里がほぅと息を吐く気配を感じる。
「御館様、安土での祝言の後は、尾張や岐阜にも朱里様をお連れ下されよ。
尾張や岐阜の者は、御館様にも久しくお会いしておらず、皆寂しがっておりますぞ。
御館様の選ばれたお方にもお会いしたいと思っておりますからな」
「ふっ、分かっておるわ。」
「……お世継ぎも…早めに見せて下されよ。
我らも…生きている内に御館様のお子を拝ませて頂きたいですからな」
「…貴様ら…
ふっ、勝手なことばかり言いおってからに…
焦るでないわ。
そう簡単にあの世に逝ってもらっては困る。
……貴様らにはまだ老体に鞭打って働いてもらわねばならぬ……俺のためにな」
「っ、御館様っ」
隣を向くと、こちらを向いていた朱里と目が合った。
目が合った瞬間、今にも涙が零れ落ちそうな潤んだ目をして、泣き笑いのような笑顔を見せる。
そんないじらしい姿がただただ愛おしくて、重ね合わせた手を再び強く握り締めていた。