第29章 決意
広間にて
「御館様、御家老方は一旦、城下の宿へ戻られました。
明日また、謁見を希望されておられましたが…」
秀吉が家老たちを見送ってから広間へと戻ってきて、遠慮がちに言う。
「……御館様…」
眉間に皺が寄った俺を案じたのだろう、心配そうに顔色を窺っている。
「……彼奴ら、此度はなかなかに強情だな」
脇息に身体を預けながら、ふーっと深く息を吐く。
「北条家の騒動が御家老達を勢い付けてしまいましたね」
「全く面倒な奴らよ。
この俺が婚姻の力を借りねば、天下を治められぬとでも思っておるのか……」
「御館様の世話を焼きたいのでしょう」
「ふっ、年寄りのお節介か…それこそ余計なお世話というものだ」
「朱里の様子はどうですか?
…また、以前のようなことになっては……」
「落ち着いておる。
色々と思うところはあるようだが…
…此度は朱里を悲しませるような真似はさせぬ」
「我らも御家老達の動きには気を付けておきます」
秀吉が退出して一人になると、信長はまた深い溜息を吐く。
(愛しい女を妻にするのに、これほど悩まされるとはな)