第29章 決意
久しぶりに家康の部屋を訪れる。
「家康、いる?入ってもいいかな?」
「……朱里?どうぞ……」
襖を開けて中を覗くと、家康は薬学の本を片手に薬を調合しているところだった。
「ごめん、今、忙しかった?」
「……別に。これは趣味だから…急ぎではないし。
……で、何の用?」
すぐに薬を調合する手を止めて、私の方を見てくれる。
「あっ、えっと、その…お礼を言いたくて……。
家康と半蔵さんが助けに来てくれなかったら、私あのまま兄に……
助けてくれて、ありがとうございました!」
頭を下げる私に家康は少し慌てたように言う。
「っ、やめてよね、お礼なんて…
朱里がああなったのは、俺の失態でもあるし……
アンタに何かあったら、あの人が大変なことになるだろうから…そうなったら面倒なのはこっちなんだけど…」
「ふふ……分かってる。それでも…ありがとう」
少し顔を赤く染めて横を向く家康に、真っ直ぐな目線を向けて心からの感謝を伝える。
今日はお礼を言うこと、ともう一つ、決めてきた事があった。
改めて居住まいを正して、向かい合う。
「……家康、あのね、今日はもう一つお願いがあるんだけど…」
「………何? 面倒なのはやめてよ」
「私に、薬学と医術を教えて欲しいの。
薬の調合と簡単な怪我や病気の治療の仕方、家康の時間の空いた時でいいから……私に教えてもらえませんか?」
「……なんで急にそんなこと…何かあったの?」
「私…もっとみんなの役に立ちたいの。
信長様はいつもどんな状況でも私を守って下さる。
家康も秀吉さんも、光秀さんも、政宗も三成くんも……みんな私を守ってくれる。
守られてるだけじゃなくて、私もみんなを守りたいの」
「朱里……」
「信長様の奥方になったら、お城のみんなも守らなくちゃいけない。
そのために…いろんな知識を身に付けておきたいの」
長い沈黙のあと、家康はふーっと大きな溜息を吐いた。