第4章 不信
翌朝〜
広間では朝の軍議が行われていた。
皆にお茶を出した後、下座に控えて軍議の内容に耳を傾ける。
秀吉さんが領地の今年の収穫の報告をしているのを聞きながら、上座の信長様の様子を伺う。
片手で鉄扇をもて遊びながらも、真剣な表情で報告を聞く姿に見惚れてしまう。
「……以上でございます」
「大義であった。引き続き経過を報告せよ。…本日の軍議はここまでとする」
「はっ」
武将たちが一斉に頭を下げる。
「…それと、急ではあるが…明日から俺は湯治に行く。先の戦で負った怪我の治りが悪いゆえ、な。朱里、貴様が供をせよ」
信長様がさもついでのように告げた言葉に、皆がざわめく。
「っ、御館様。私もお供致します。城下外へ2人だけで行かれるなど、危険です!」
秀吉さんが慌てて声を上げる。
「俺が怪我を負ったことは極秘事項だ。隙ありと謀反を企む輩が現れては厄介ゆえな。ゆえに湯治も極秘事項だ。護衛はいらん」
「っ、しかし…」
「秀吉、御館様のお心を読めぬとはまだまだだな」
「うるさい、光秀。無責任な発言は慎め」
「2人とも黙れ…これは決定事項だ。朱里、支度をしておけ」
「はっ、はい」
そのまま羽織を翻し退出される信長様の後を秀吉さんが慌てて追いかけている。
(信長様と2人きりで湯治…嬉しいけど、それよりも…)
「あの、家康。信長様のお怪我、どうなの??あれから随分経つよね?治りが悪いって…もしかして本当はひどい怪我だったの??」
心配になって、隣に座っていた家康に問いかける。
「えっ、いや、うん、どうかな?そんなこともなかったような…」
「何?どっちなの??」
「いや、あっ、えっと俺急いでるから。信長様に直接聞いてよね」
引き留める間もなく、そそくさと去って行かれてしまい、戸惑いを隠せない。