第118章 青い花の秘密
障子越しに淡い月の光が射し込み、湯浴みを終えたばかりの信長からはふわりとシャボンの良い香りが漂ってくる。
朱里は海図の上に置かれた硝子の花へと視線を落とした。
月明かりを受けた蒼い花びらは淡く輝き、本物の花よりも儚く美しく見える。
「なんだか……少し怖いです」
ぽつりと零した言葉に、信長の眉が僅かに動く。
「怖い?」
「だって、この花のために船が襲われて、命を落とした人もいて…それに、もし本当に七つ揃ったら何が起こるのかも分からなくて」
昼間は平静を装おうとした。けれど、静かな夜になると不安は少しずつ輪郭を持って胸に広がる。
信長はしばらく何も言わなかった。やがて、朱里の顎を指先で軽く持ち上げる。
「朱里」
低く響く声に、胸がどきりと鳴る。
「俺の前でまで強がる必要はない」
真っ直ぐに見つめられ、思わず息を呑んだ。
信長の緋色の瞳には、いつもと変わらぬ強い光が宿っている。
「だが覚えておけ」
そう言うと信長は朱里の手を取り、自らの胸元へ導いた。
衣越しにも感じる力強い鼓動。
「何が現れようと、誰が敵になろうと、俺が負けることはない」
断言だった。一切の迷いも躊躇もない。
まるでそれが当然の理であるかのように。
けれど不思議と、その言葉には根拠など必要ないと思えてしまう。
信長の言葉だから。信長が言うなら本当にそうなる気がしてしまうのだ。
「……はい」
自然と口元が緩み、笑みが零れる。
すると信長は満足そうに目を細めた。
「ようやく笑ったか」
「信長様といると、どんな不安も吹き飛んでしまいそうですね」
「ほう?」
くすりと笑い、信長は悪戯っぽく片眉を上げた。
「ならばもっと近くに来い」
「え?」
次の瞬間、腕を引かれた。体勢を崩し、あっと思う間もなく信長の膝の上に座らされていた。
「の、信長様っ!?」
慌てて身を起こそうとするが、腰に回された腕はびくともしない。
背後から抱き込まれ、信長の体温が直に伝わってくる。
「静かにしておれ」
耳元で囁かれ、身体が震えた。
障子から射し込む月明かりが二人を淡く照らす。
信長は朱里の肩に顎を預けながら、背中越しに海図を眺めた。
「七つの花の謎も気になるが……」
低く囁かれる声が耳を擽る。
「今宵はそれよりも、貴様の蕩けた顔を見ていたい」
「そんな……」