第118章 青い花の秘密
宗伯はそんな二人を微笑ましく見ながら、ふっと目を細めた。
「お気に召したご様子で何よりです」
宗伯が穏やかに笑う。
「は、はい。本当に綺麗…」
「ならばそれで良し」
信長は短く言った。
その声に顔を上げると、紅い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
「人が何に価値を見出すかはそれぞれだ。貴様がそれを美しいと思ったなら、それだけで十分だろう」
朱里の胸が小さく鳴る。
信長は名刀も名物茶器も数多く見てきた男だ。南蛮渡来の高価で珍しき品々も容易に手に入れられる。
それでも今、自分が心を動かされたものに価値があると言ってくれている。そのことが何より嬉しかった。
「……ありがとうございます」
小さく礼を言うと、信長は満足そうに鼻を鳴らした。
「分かればよい」
その時だった。
宗伯が何かを思い出したように「ああ」と声を上げる。
「そういえば、青い花には少々面白い話がございます」
「面白い話?」
「ええ」
宗伯は意味深に微笑んだ。
「その硝子細工を持ち込んだ南蛮商人が申しておりました。南蛮では青色の花は『幸運を呼ぶ花』と言われているのだと」
「幸運?」
朱里は目を丸くする。
日ノ本では縁起を担ぐ話は珍しくないが、異国にもそんな言い伝えがあるとは思わなかった。
「南蛮の船乗りたちの間で語られている話らしく、長い航海の無事を願って青い花を飾るのだとか」
「へえ……」
興味深そうに聞く朱里の横で、信長が鼻で笑う。
「迷信だな」
「そうかもしれませぬ」
宗伯はあっさり認めた。だが次の瞬間、柔らかな笑みを浮かべる。
「ですが、人の願いが込められた品というのは、それだけで価値があるものです。思いというのは、強く願えば叶うものですよ」
その言葉に、朱里はそっと硝子の花を胸元へ引き寄せた。
青い硝子の花は陽の光を受けて淡く輝き、まるで本物の朝露を宿しているかのように見える。そのひんやりとした硝子の感触が手のひらに心地良い。
「願いが叶う幸運の花…素敵なお話ですね」
「やはりそれは貴様が持つに相応しいようだな」
「えっ…?」
「貴様はまさに俺に幸運を運ぶ女だ。その美しく青い花のようにな。俺の傍に置くに相応しい、得難い宝だ」
「の、信長様っ…」
思いも寄らぬ信長の言葉に朱里は頬を赤く染め、宗伯は堪え切れぬように忍び笑いを漏らす。
