第25章 罠
一瞬何を言われたのか分からず、すぐには答えられなかった。
「そのような話、知りませぬっ!
上洛の目的は任官の件、と聞いております。
縁組など………嘘っ!」
「くくっ、嘘ではない。
お前は騙されているのだ。
お前の身体を弄んでおいて、公家の姫を正室に迎えるとは、ひどい男よな。
まぁ、もうじきお前の愛しい信長はいなくなる。
諦めろ、朱里」
兄は不敵に笑いながら部屋を出て行った。
(っ、縁組など……兄上の嘘に決まってる。
信長様は、京から戻ったら祝言を挙げる、と言って下さった。
……でも…任官の件以外にも何か思案されているような様子はあった……聞いても私には言って下さらなかった…。
信長様のこと、信じてる…信じたい……でも…)
兄から告げられた言葉が、心に刺さった棘のようにチクチクと私を蝕み、心に宿った不安な気持ちがいつまでも晴れなかった。