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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


「何か裏があるのか…」

「御館様?」

傍らに控えていた秀吉は小さく呟かれた声に訝しげに信長の表情を窺う。
眉間に深く皺を刻み、何事か思案するように荒れ果てた戦場を鋭く睨む主君の姿があった。

今日の初戦は予想に反して終始味方の優勢で進み、最も懸念していた一向衆との衝突もなかった。信長が「必ず現れる」と言った顕如だが、今日、戦場にその姿を見せることはなかった。
各地の反乱分子鎮圧に多くの兵力を割かれている中での久しぶりの大きな戦は、上杉武田軍との連携があるとはいえ容易にはいかないだろうと覚悟していたのだが、蓋を開けてみれば予想が大きく外れた結果となった。

(とはいえ、まだ初戦だ。顕如の動向が分からない以上、油断はできねぇ。御館様が追撃を命じられなかったのも思うところがあってのことだろう。勝ちに酔った兵達の気が緩まぬようにしなければな)

初戦の勝利を喜ぶ素振りもなく険しい表情を崩さない信長を気遣いの目で見ながら、秀吉もまた決意を新たに唇を固く引き結んだ。

敵は早々と撤退したとはいえ、首謀者を討つには至らなかった。今も互いに陣を敷いたままであり、決着は明日以降に持ち越した形だ。

「秀吉」

「はっ!」

「今日の戦、元就は前線には出てこなかったのだな?」

「はい。事前の見立て通り、敵方には異国の火器が投入されており、雑賀衆と見られる射手も数多見受けられました。が、元就が指揮を執る姿は確認されていません。狡猾なあの男のこと、雑賀を上手く動かして矢面に立たせ、自分は裏で糸を引いているのでしょうか?」

「どちらも利に聡い者どもだ。利害が一致すれば簡単に手を組むが、そのような関係は綻びるのも容易い。孫一は頭の切れる男ゆえ、元就にいいように踊らされているわけではなかろうが…」

雑賀が織田に降った後、孫一は表舞台から姿を消し、雑賀の里は以前のような自治を認められず、信長の支配下に入った。
本願寺が紀州に移った後も孫一が顕如に接触する様子はなかった。
それが今になって姿を現し、雑賀の里を取り戻すため元就と手を組んだというのだろうか。

(誰しも己の信じる大義があり、守りたいものがある。己の大義を叶えるために他人を傷付けることも避けては通れぬことだ。それでもこの道行きは後戻りなどできん)

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