第23章 上洛
翌日も、朝から来客が途切れることなく続いており、それらに応対しながら時を過ごす。
形式的な挨拶ばかりで実りのない謁見に退屈していたところに、『近衛様が参られた』と小姓から告げられる。
「信長さん、お久しぶりですな。
武田攻めの折にお会いして以来やろか?」
近衛殿は公家の中では一風変わっており、関白のくせに気軽に京から出て戦場にも同行したりする破天荒な公家である。
鷹狩りという共通の趣味もあって、なぜか俺と妙に馬が合い、気軽に話ができる友人のように、公家の中では最も親しく付き合っている。
「おお、元気そうだな。
久しぶりに色々と語り合いたいところだが、此度はそうも言ってられん。
………俺の上洛の目的は当然承知しておろう?」
「我が娘との縁談、お気に召しませなんだか?
帝からのお声がかりですよ。
織田家にとって、この上ないお話かと思いますけど……」
「織田家にとっては…な。俺には迷惑な話だ」
「せやけど、天下人がいつまでもお一人いう訳にもいかしませんやろ?
御世継ぎもそろそろこしらえんと……」
「くくくっ、母親みたいな口振りだな」
「まぁ、そんな心境ですな。信長さんと縁を繋ぐことは私にとっても願わしいことですから」
「………悪いが、この縁談は受けられん。
俺には、正室にと決めた女がおる」
「……そんな話は初耳ですな。いつの間に?
どこの姫さんです?もう正式に決まっとるんですか?」
心底驚いたように矢継ぎ早に質問される。
「……詳しくは言えん。大名家の姫だ、とだけ言っておく」
「う〜ん、そうですか。残念やな。
決まったお人がいはるんやったら、無理強いはできませんしな。
せやけど、この話は私の一存では白紙にできませんわ。
私より帝の方が随分乗り気で勧めはった話ですから。
直接、帝に言うてもらうしか……」
「……分かっておる。
参内して直接申し上げるつもりだ」
一筋縄ではいかぬ嫌な予感がして、入京してから何度目か分からぬ溜め息を吐いた。