第4章 不信
信長様と初めて結ばれたあの夜から、夜は天主で信長様と過ごす時間が増え、満たされた日々を過ごしてた。
昼間は信長様が、退屈している私を見かねて、同じように行儀見習いでお城に上がっている家臣の娘達に薙刀を教える役目を与えて下さったおかげで、同年代の娘達と楽しい時間を過ごせていた。
「じゃあ、今日はこのへんでお終いにしましょうか」
「朱里様、ではこの後みんなでお茶に致しましょう」
年頃の娘が集まれば、やっぱり恋の話に花が咲くもの。
今日もワイワイと安土の武将たちの噂話やら、時には閨のきわどい話もあったり、と賑やかな時間。
「朱里様が羨ましいですわ。信長様のような方に愛されて」
「本当に。信長様はどんな愛の言葉を囁かれるんですの?」
「えっ、愛の言葉⁇」
「そうですわ〜。普段は冷たい印象ですけど、閨の中ではやっぱり違いますでしょ?」
「あの低い声でどんな甘い言葉を囁かれるのですか?」
(愛の言葉って…好きとか愛してるとか、そういうことかな)
(…そういえば私、信長様から『好き』って言われたことないかも)
(普段も、閨の中でも…信長様はいつも優しく扱ってくださるけど、愛の言葉は言って下さらない…)
黙り込んでしまった私を皆が気まずい様子で見つめる視線が痛かった。