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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第114章 夏のひととき


「うぅ…暑いっ…」

額に滲む汗を手拭いで押さえながら着物の襟元を寛げて扇子でパタパタと風を送る。が、部屋の中が蒸し暑いせいか、肌に届く風はこれと言って涼しくもなく、扇ぐ動作がかえって暑さを増しているという有様だった。
梅雨が明けると、今年も例年どおりの暑さがやって来た。
元来暑さが苦手な朱里にとっても今年の暑さは人一倍堪えるようで夏は始まったばかりであるが、早くも根を上げそうになっていた。

「はは〜、あそんで!」

茹だるような暑さにぐったりと脇息に凭れていると、襖がスパンっと勢いよく開いて吉法師がひょっこりと可愛らしい顔を見せた。
真夏の太陽のような輝くばかりの笑顔が眩しくて、思わず目を細めて愛しい我が子を見つめた。

「吉法師、今日も元気いっぱいだね」

「はは!お外いこ〜。きち、お庭であそびたい!」

「ええっ…」
(この暑さで外遊びは無理!死んじゃう…)

「き、吉法師、お外は暑いから今日はお部屋で遊ぼうか?積み木とかコマ回しとか…」

「やっ!お外がいい!きち、ちちのお庭でかくれんぼするの!」

「か、隠れんぼ!?」
(それはまた何とも厳しい遊びを…)

「父上のお庭って…本丸御殿のお庭のことかな?吉法師、父上のお仕事のお邪魔になるから父上のお庭へは行けないよ。遊ぶならこっち(奥御殿)のお庭にしようね」

「やっ!こっちのお庭、やだっ!ちちのお庭いくー!」

「ええっ…」

(困ったな…この子は一度こうと決めたらなかなか諦めないんだよね。それにしても子供って元気だな。こんなに暑いのに外遊びがしたいだなんて…ついていけない)

イヤイヤと駄々を捏ね始めた吉法師を前に朱里は途方に暮れる。
信長様譲りの聞かん気の強さで言い出したら聞かない吉法師を宥めるのは至難の業だった。加えてこの茹だるような暑さでは上手く頭が働かない。

「ちちのお庭、セミいっぱいいるの、きち、知ってる。セミ、とる!」

(セミ捕りかぁ…そう言えば、吉法師、この前初めてセミを見て大興奮だったからなぁ…)

先日初めて間近にセミを見た吉法師は、ジージーと羽を震わせて力強く鳴くセミに始めこそ恐る恐るといった様子だったが、そこはやはり男の子、すぐに慣れて直に触れるようになると初めて見る夏の虫に興味津々だった。


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