第110章 魔王の霍乱
(っ…暑い…)
身体の奥に籠る暑さに耐えかねたように、信長は寝台の上で身動いだ。眠っている間にも無意識に足で布団を跳ね除けていたようで、掛布が足元でくしゃりと丸まっていた。
季節は冬、それも一年で最も寒い如月の頃である。朝晩は強烈な冷え込みで身を切るような寒さになり、誰しもが布団から出るのが億劫になる季節でもあった。
それがどうしたことだろうか…綿入りの布団を邪魔に思うほどに身の内から湧き上がる熱さを感じて、信長は苦しそうに息を吐いた。
ハッと意識が浮上して重い瞼をゆっくりと持ち上げると、見慣れた天井が見えた。室内は既に明るくなっていて、普段は夜明け前には起きていることの多い信長にしては珍しく遅い目覚めだった。
(もう朝か…何刻だ?)
寝起きでぼんやりする思考のまま寝台の上で半身を起こそうとするが、思いの外、身体が怠くて戸惑う。それでも無理矢理に身を起こすと、今度は急に起き上がったせいか、こめかみの辺りがズキンっと酷く痛んだ。
「つっ……」
思いがけない痛みにひゅっと息を呑み、苦々しく顔を顰める。
これはどうしたことだろうか。
突如として思うようにならなくなった己の身体に戸惑いと苛立ちが募るが、身体を起こしているのも辛く、寝台に手をついて堪えた。
「信長様っ!?」
寝所の襖が遠慮がちに開かれて微かな衣擦れの音とともに部屋の中に入ってきた朱里は、寝台の上に身を起こしてこめかみを押さえる信長を見て驚いたように声を上げた。
「っ…朱里?」
自分のものとは思えぬ酷く掠れた弱々しい声が溢れ出て、驚いたと同時に喉奥がキュッと苦しくなった。
「くっ…うっ、ごほっ…」
続け様に迫り上がってくる息苦しさを抑えられず、ゴホゴホっと激しく咳き込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか、信長様?横になって下さい、早く…」
慌てて駆け寄って来た朱里は、苦しそうな信長の背中に手を当てて宥めるように摩りながら気遣わしげな目を向ける。
「お辛いですよね。手拭い、冷やしてきましたからね。さぁ、早く…」
そっと伸ばされた手が額の上に優しく置かれた。その手は冷んやりと冷たくて心地良かった。
「わっ…熱い。やっぱりお熱、だいぶ高そうですね」
「くっ…熱、だと…?」