第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
「信長様…」
「ん?」
「ありがとうございます」
広い胸にそっと頬を寄せ、心からの感謝の気持ちを込めて言う。
いつも私を大切に思ってくれて
子供達を愛情たっぷりに見守ってくれて
有り余るほどの愛と慈しみを与えてくれて
私を貴方の隣にいさせてくれて
「ありがとうございます、信長様」
多くのものを背負っておられるのであろう広い背中にそっと腕を回して抱き締めると、愛しさに突き動かされるようにもう一度感謝の気持ちを伝えた。
感謝の気持ちは、品物を贈ることや何かをしてあげることでだけ伝えられるわけではない。想う気持ちを言葉にして伝えることが大事なのだと気付いたから……
「……何の礼か分からんが…貴様に礼を言われるのは悪くない」
クッと口角を上げて自信に満ち溢れた笑みを返すと、信長は朱里を強く抱き締めた。
朱里と出逢い、愛する者とともに目覚める穏やかな朝が信長にとって変わらぬ日常となった。
常に変化を求め、信長の心はいつも先へ先へと向かってきた。
変わらぬ日常がこれほどに尊いものだと思う日が来るなどとは思ってもいなかった。
(朱里が変わらず隣にいてくれることが俺にとっての最上の喜びだ。それは今もこの先も決して変わることはない。礼を言わねばならぬのは俺の方かもしれん)
「朱里…」
「はい」
「ありがとう。愛してる」
底冷えのする冬の朝にも関わらず、布団の中で身を寄せ合う二人の熱はいつまでも冷めることはなかった。