第107章 嫉妬は甘い蜜の味
「んっ…ああっ…ふっ…」
絶え間なく与えられる口付けに酔い、快楽に身を委ね始めた朱里を見て、信長は満足そうに口元を緩める。
思わぬ夢を見たのは全く予想外であったが、目覚めれば傍らには愛しい妻がいて、己の腕の中で可愛らしい声を上げる…変わらぬ日常がそこにあった。
天下布武を成すために数多の命を奪い、家族であろうと裏切る者には容赦しなかった。己の歩む道に迷いはなく、大望のためならば己の全てを投げ出してもよいと思っていた。
他者から大切なものを奪ってきた己が家族のぬくもりを求めるなど到底許されることではないと思ってきた。
(幼き頃、狂おしいほどに求めても得られなかった家族のぬくもりを朱里は俺に与えてくれた。結華や吉法師…子というかけがえのない存在を与えてくれた。人を愛し、人から愛されることがこんなにも満たされた心地になるのだということを朱里は俺に教えてくれたのだ)
勘十郎や政秀、多くの家臣達…敵味方の失われた数多の命が戻ることはなく、己の忌まわしき業は一生背負っていかねばならないものだった。朱里はそんな信長の業をも受け入れ、寄り添い、共に歩んでくれる。
「朱里…愛してる。貴様は今年も変わらず俺の隣で笑っていろ。この先もずっとだ。俺の命に背くことは許さん」
愛おしげに命じると信長は深く身体を重ねていく。
何年経っても変わらない、歳を重ねるごとに濃密になっていく愛の深さを感じながら、時を忘れて甘く溺れていった。