第106章 収穫祭の長き夜
(こ、これは……)
箱の中に残っていた最後の衣装は赤子の吉法師用の衣装だったのだが……
「………南瓜(かぼちゃ)?」
それまでに見た艶やかな黒色とは正反対の鮮やかな橙色が目に飛び込んできて、思わず目をパチパチと瞬いてしまった。
それは南瓜を模した赤子用の着ぐるみらしく、ふんわりと柔らかそうな生地で作られていて、お腹のところには南瓜お化けの顔が付いていた。
着ぐるみはつなぎになっていて、頭の部分にはすっぽりと頭部を覆う形の帽子が共布で作られている。
それは、政宗がこの日のために作ってくれ、城下に飾り付けられた南瓜提灯を思い起こさせた。
「わぁ!吉法師は南瓜お化けの仮装ですか?可愛い!」
「だぁ?」
吉法師は今日も変わらず私の傍らにぴったりとくっ付いたまま、箱の中から次々と出てくる不思議なものに興味津々で、その都度その小さな手を伸ばしていた。
結華の猫耳にも目敏く手を伸ばし、触れようとして嫌がられていた。
姉と弟の微笑ましい様子に目を細めながらも、南瓜お化けの着ぐるみを早速着せてみることにした。
「うわっ…可愛いっ…」
全身を橙色に包まれた赤子は、異国の柔らかな生地が珍しいのか、不思議そうにペタペタと触れている。
衣装の方が少し大きかったのか、意図せず深めに被ることになってしまった帽子が可愛らしさを倍増しているようだ。
(可愛い過ぎるっ…本人がよく分からずに着られてる感がたまらない!)
「あぅ!あっ、あっ…」
自分が何を着せられているのかはよく分かっていないが、母や姉が自分を囲んで楽しげにしているのは分かるのだろうか、吉法師もまたキャッキャッと楽しげに声を上げる。
「吉法師、可愛い!姉様が抱っこしてあげる」
「あ〜、あぅ…だ、だっ…」
黒猫の衣装に着替えた結華が南瓜お化けの吉法師を抱いてその場に座り込み、あやしているのを微笑ましく見守りながら、私も自分の支度を整えた。
衣装を着て帽子を被り、魔女が魔法をかける時に使うという棒のようなものを手に持って…完成だ。
(後は信長様だけど…信長様のはどんな衣装なのかしら…)
信長の衣装は予め別にされていたらしく、箱の中には残っていなかった。今頃は信長もまた天主にて支度をしているはずだ。
(魔女に黒猫、南瓜お化けときたら次は……)