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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第106章 収穫祭の長き夜


「はぁ…」

吉法師を抱いて朱里が部屋を出ていくのを、ろくに言葉もかけぬまま見送った後、信長は秘かに溜め息を吐く。
ひっそりと閉じられた襖の豪華絢爛過ぎる絵が妙に目に付いて、訳もなく信長の心を騒つかせた。

傍らの大きな衣装箱は、蓋を開けたまま手付かずの状態で虚しく置かれていた。
異国の珍しき衣装を前にして、好奇心いっぱいにキラキラと目を輝かせる愛らしい姿を見たいと楽しみにしていた。
それが些細な意見の食い違いから、思いがけず朱里と言い争うようなことになってしまった。

部屋を出ていく際の朱里の沈んだ顔がチラついて、気持ちがざわざわと落ち着かない。
悩ましげに何か言いたそうにしていた様子が心に引っかかり、チクッとした小さな痛みがいつまでも続いているようだった。
常ならば、朱里の些細な心の機微にもすぐに気付いてさり気ない気遣いを見せる信長だが、何となくモヤモヤした思いが拭い去れず優しい言葉もかけられなかった。

このモヤモヤは何なのか…何に対してこんなにも苛立ちを感じるのか…自分で自分の感情が理解できない。
赤子がぐずることは至極当たり前のことであるし、結華の時はさして気にもならなかった。
何をしても何をされても只々愛らしいと思うばかりで、苛立ちなど感じたこともなかった。

それなのに……

どうしたことか、朱里に朝から晩までべったりとくっついている吉法師を見ると、胸が嫌な感じに騒つくのだ。
まだ一歳にも満たぬ赤子に対して我ながら狭量だとは思うが、朱里が吉法師を存分に甘やかし、その胸に抱き締める様を見る度に胸の騒めきが酷くなる。
吉法師が世継ぎだから、男子だからそんな風に厳しい目で見てしまうのかとも考えたが、どうもそうではない。
そもそも自分は、子をそのような型に嵌った目で見るような男ではない。
吉法師のことも、『世継ぎだから厳しく育てねば』などと思ったこともなかった。

(朱里は吉法師を世継ぎとして立派に育てねばと気負っているようだが…俺としては、子は男も女も関係なく健やかに育てばそれで良いと思っている。吉法師を殊更厳しく育てたいわけではないのだが…)

ならばこの感情は何なのだ…この、大事なものを奪われたような…この焦燥と苛立ちは…一体何なのだ?

(全く…訳が分からん)

思うようにならない己の感情を持て余し、信長は再び小さく溜め息を吐き出したのだった。

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