第3章 本当の気持ち
ぼんやりと物思いに耽っていると、隣で眠っていた朱里が目を覚まし身動ぎする。
「んっ、信長様、おはようございます」
身体を起こそうとして顔をひどく顰める。
「っつ、痛い」
「無理を致すな。今日はここで休んでおれ。朝餉もこちらに運ばせる」
「っ、ありがとうございます…」
幸せそうな笑みを浮かべて俺を見つめる朱里を見て、心の奥がじんわりと暖かくなる。
(この笑顔をいつまでも見ていたい)
初めて感じる感情に戸惑いを隠せないでいた、その時…
「御館様、失礼致します。軍議のお時間ですので、そろそろお支度を……って、あっ、いや、これは…失礼致しましたっ!」
襖の向こうで慌てる秀吉、その後ろには家康の姿もあった。
「っ、きゃあ」
朱里は恥ずかしさのあまり慌てて頭まで布団を被っている。
「ったく、何やってるんですか!?安静にするように言ったでしょうが…傷が開いても知りませんよ‼︎包帯替えるんで、さっさと支度して下さい!」
呆れ顔でブツブツ言ってる家康と、顔を赤くしてチラチラとこちらを伺う秀吉を、気にすることなく乱れた着物を直しながら起き上がる。褥に朱里を残し、文机の前へ移る。
「御館様が寝過ごされるなど、珍しいですね。いつも夜明け前には起きてらっしゃるのに」
「…そうだな。久しぶりによく眠れた」
「傷の方はいかがですか?まだ痛みますか?」
「…いや、大事ない。…昨夜の薬が良く効いたようだ」
(本当に良い薬だ…中毒(くせ)になるほどに、な)
褥の方へ意味深な視線をやりながら、口元に自然と笑みが浮かぶ。
その様子を珍しいものでも見るかのように、まじまじと見つめる秀吉と家康の2人であった。