第21章 年始の会
少し歩いたところで、廊下の先で先程の年配の男性と数人の家臣の方が話をしながらこちらへ歩いてくるのが見えて、思わず近くの部屋へ隠れてしまった。
(っ、私、何やってるんだろう…しっかりしようって気合い入れたとこなのにっ)
「御館様は変わられた。以前はあのように女人に優しい顔をされるようなお方ではなかったのに」
「あの姫が安土に来てから、毎夜、夜伽を命じておられるそうではないか。
嘆かわしいっ。
情慾に溺れてうつけに戻られるようでは一大事じゃ」
「あのような姫、御館様を惑わす妖婦じゃ。
北条家の姫など、所詮は人質ではないか。
御館様にはもっと織田家にふさわしい姫と婚姻を結んで頂かねばっ」
(っ、ひどい…私のことだけならまだしも、信長様のことまでひどく言われるなんて………)
「御家老がた、こんなところで噂話をなさっては誰に聞かれているやもしれませんよ。
お控え下さい。
…この後、宴があるのでしょう?早く行かれないと、信長様のお怒りに触れますよ」
(この声…家康の声だ…)
「こ、これは徳川様。
で、ではこれにて………」
足早に去っていく足音が聞こえ、ほっと息を吐いていると、突然襖が開かれて家康が入ってくる。
「…朱里、アンタ大丈夫?
……って、泣いてるの??」
「…えっ?私、泣いてなんか……
………っ、あれ?」
気付かなかった、頬を流れ落ちる涙。
しっかりしなきゃ…信長様にふさわしい姫、って思われるように…
「朱里」
家康が私を引き寄せ、その腕の中にギュッと抱き締めてくれる。
その優しさに、緊張の糸が切れたのか、涙が堰を切ったように次から次へと溢れ出て、私は家康の腕の中で声を上げて泣いた。