第105章 毒と薬は紙一重
翌朝、朱里が目覚めると陽はすっかり高くなっていた。
否、正確に言うと二度目に目覚めたら、であった。
明け方、まだ寝所の中も薄暗く夜の気配が残っている頃に一度、目覚めたのだ。
否、目覚めさせられたのだ…信長様に。
一体いつから起きておられたのだろうか…寝起きとは思えぬ清々しい笑顔が印象的だった。
寝起きで焦点の定まらぬ私に鼻先が触れるぐらいに顔を近づけて『朱里、朝だぞ』と艶めかしく告げた信長様は、私が自分が置かれた状況を理解する間もなく、私の身体を組み敷いてきたのだ。
甘い睦言を耳奥に注がれて、身体中を余すところなく愛された。
次第に明るくなっていく寝所の中で、羞恥に身を捩りたくなるような愛され方をして、これは何かの仕置きだろうかと思うほど滅茶苦茶に乱された。
快楽に我を忘れて何度も達してしまい、最後は信長様の腕の中で意識を手放した…そこまでは記憶がある。
「っ…嘘っ…今、何刻なの??」
障子越しでも外が明るいことが分かり、さぁっと血の気が引く思いがした。
掛布を跳ね除けて気怠い身体を慌てて寝台の上に起こすと、キョロキョロと辺りを見回す。
考えなしに勢いよく起き上がってしまったが、幸いにも夜着がきちんと整えられていて恥ずかしい思いをせずに済んだ。
激しい情事の後、文字通りぐちゃぐちゃになったまま寝入ってしまったはずだから、いつもの如く、信長様が夜着を着せ掛けてくれたのだろう。
(あんまり覚えてないけど…恥ずかしいことしちゃったな…)
その信長はといえば、当然のことながらもう寝所の中にその姿はなかった。
きちんと畳まれて寝台の上に置かれた漆黒の夜着を見て、何とも言えない後ろめたい気持ちになる。
身体を起こしたことで腰の辺りにずぅんっとした重怠さを感じ、お腹の奥がジュクジュクとした甘い疼きを訴えた。
(うっ…まだ身体の奥が熱いっ…信長様のが入ってるみたい…)
奥まで深く何度も愛された身体は、愛しい人の残した余韻で埋め尽くされていて淫らに火照ったままだった。
早く起きて身支度を整えなくてはならないと思うのに、焦る気持ちとは反対に身体は動かなかった。
(んっ…信長様…)
散々に愛を注がれた身は柔らかく蕩け切っていて、思考さえも寝起きということも相まってか、非常に覚束ないものになっていた。
(頭、ぼーっとする…これ、かなり寝過ごしちゃってるよね…)