第103章 旅は道連れ
(はぁ…今朝も雨かぁ…)
まだ薄暗く夜闇の気配がうっすらと漂う中で意識を浮上させた私は、障子越しに聞こえてくるざぁざぁという雨の音に、布団の中で小さく溜め息を吐いた。
季節は水無月に入り、梅雨入りも近いのか、近頃は雨の日が続いていた。
今朝のように朝から雨という日も多く、どんよりと曇った朝は何となく起きるのも億劫になってしまう。
(はぁ…雨の日って何だか身体が重くなる気がするなぁ…ジメジメした湿気のせいかしら…)
気怠い身体を布団の中でモゾモゾと動かしていると……
「今朝もよく降るな」
「あっ…信長様…おはようございます。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「いや、起きていた。雨音で目が覚める季節になったな」
「ふふ…この時期は朝から雨という日も多いですものね。信長様は雨はお好きですか?」
「好き、嫌い、とは、考えたことはないな。適度な雨は田畑を潤し作物の生育を助ける恵みの雨となるが、度が過ぎた雨は土地を荒らし民達の暮らしを害することにもなる。
雨が増えるこの時期は、何かと気を配らねばならぬことが多くなるな」
「そうですね…」
(雨だからといって信長様はゆっくりお休みできるわけではないのに…私ったら、『雨はお好きですか?』なんて、呑気なこと聞いちゃったな…)
信長様のお忙しさは分かっているつもりだったのに…と秘かに落ち込んで俯いてしまう私を、信長様は胸元に抱き寄せてくれる。
「……このような雨の日は、少し朝寝をするのもよい。貴様とゆっくり過ごせるからな」
「信長様……」
布団の中で互いに身を寄せて体温を分かち合っていると、暖かくふわりとした心地になる。
(ん…気持ちいい。このまま、また眠ってしまいそう…)
大好きな人に抱き締められて心地よい心と身体の暖かさにウトウトし始めていると……信長様が不意に思い出したように話し始めた。
「………雨の日は好きでも嫌いでもないとは言ったが…雨が降ると時折、思い出すことがある。もう随分と昔のことになるが、今でも忘れることはない戦の記憶だ」
「……戦、ですか?」
ポツリと呟かれた信長様の声は淡々としたもので、僅かに感慨深さが滲んでいた。
(信長様が自ら戦の話をなさるなんて珍しい。戦から帰られても、私には詳しいことはあまり話されない方なのに…)