第102章 薫風に泳ぐ
「見て下さい、信長様!この鯉のぼり、私達みたいだと思いませんか?」
「…は?何を言って…貴様はまた訳の分からんことを…俺達みたいとは、どういう意味だ?」
「ほら、これ、この一番上の大きな鯉がお父さん…信長様で、その次の少し小さいのがお母さん…私です。そのまた次のもう少し小さいのがお姉さん…結華で、一番下の小ちゃい赤ちゃん鯉が吉法師です!ね、ほら、私達家族4人と同じですよ」
大発見をしたかのような興奮ぶりをみせる朱里の言葉を聞きながら、信長もまた改めて4匹の鯉たちを見る。
(なるほど、言われてみれば家族に見えんこともない。また突拍子もないことを思いついたものだが…まぁ、悪くはないな)
青空の下、4匹の鯉が仲良く風に泳ぐ姿を想像すると、ふわりと心の内に暖かいものが溢れてくるような気持ちになる。
「ね、信長様?こんな風に家族が揃ってるのって、素敵だと思いませんか?」
「ふっ…そうだな」
そんな風に考えられる朱里のことも、信長には微笑ましく思えた。
朱里はキラキラと輝くような笑顔で愛おしげに鯉のぼり達に触れている。
(家族とは…思った以上に良いものだな)
夜が明けたら、鯉たちを空へ泳がせよう。
五月晴れの空を悠々と泳ぐ鯉のぼりの家族を、朱里と結華と吉法師と…俺の大切な家族と共に見よう。
この幸福な日常が永遠に続くように願いながら……