第101章 妻として母として…その先に
「やっ…ちょっと…危ないですよ。前、向いてて下さい!」
体勢が不安定になってしまい、慌てて信長様の背中にぎゅっとしがみつき、益々深く顔を埋める。
何となく、朱に染まった顔を見られるのが恥ずかしくて、見られぬように隠してしまった。
「っ…朱里っ…」
信長は自身の背に朱里の温もりを感じて、触れ合ったところからじわじわと己の心の内までもが温まっていくような心地良さを感じていた。
腰に手を回し、ぎゅっと抱き着く様子が可愛くて堪らず、これが馬上でなければよかったのにと、詮無いことを考えてしまう。
胸の鼓動が煩く騒ぎ、身体の熱がかぁっと一気に上昇する。
(くっ…無自覚に俺を煽るとは…朱里の恥じらう顔を見られぬのは口惜しいが、今は我慢しておいてやるか……)
「……帰ったら覚悟しておけ」
「!?」
後ろ手に朱里の腰をするりと撫でると、信長は手綱を握り直して馬の歩を速める。
その口元には、この上なく愉しそうな笑みが浮かんでいた。