第19章 金平糖を奪還せよ
次の日の朝
私は天主の信長様にお茶を持って会いに行く。
(昨日は、政務があるから、と言って針子部屋を出た後すぐに別れたんだよね。
夜もお呼びがかからなかったし…お忙しいんだろうな)
「信長様、おはようございます。お茶をお持ちしました」
「…朱里か、入れ」
襖を開けると、信長様は既に文机の前で仕事をしており、手元の書簡に目線を落としたまま私に声をかける。
「今朝はやけに早いな」
「信長様こそ、もうお仕事されてたんですね。
………って、あれ??
その小瓶、まさか……例の金平糖ですか??」
部屋へ入ってすぐ、文机の上にちょこんと置かれた小瓶が目に入る。
白色、黄色、桃色、空色……色とりどりのキラキラ輝く星達が小瓶いっぱいに詰まっている。
「………昨夜、秀吉が来て置いていった。
………但し、条件付きだそうだがな……」
そう言って、一枚の紙をポイッと私に向けて投げるように寄越す。
そこには………
『其の一、金平糖は一日三粒までとする。
其の二、夜間は食さない。
其の三、勝手に城下に買いに行かない。
其の四、人前で歩きながら食さない。
其の五、金平糖を持ち歩かない。
以上 』
「………これ、秀吉さんが?」
信長様にとって少々厳しすぎる条件が並べられた紙を手にして、これを書いてる秀吉さんの真面目な顔が思い浮かぶ。
「……ああ。彼奴がどうしてもと言うので、仕方なく受け入れてやったのだ。
……決して俺の本意ではない」
憮然とした顔で金平糖の小瓶を持ち上げ、外から射し込む朝日にかざしキラキラとした星の瞬きを堪能する。
「………でも、金平糖、戻ってきてよかったですね。
信長様にとって欠かせないもの、ですもんね!」
(欠かせないもの、か…
いつの間にか、俺の周りには『欠かせぬもの』が増えたな)
「ふっ、金平糖は条件付きの『欠かせぬもの』だからな……
まずは条件のない『欠かせぬもの』である貴様をいただくとしようか………」
「っ、ええぇ?何ですか、それ??…んんっ、やっ…」
信長様は私を引き寄せ、濃厚な口づけを落とす。
朝日が射し込み、徐々に明るくなっていく天主の中で二人の影が重なり合った。