第98章 翠緑の恋情
うっとりと、髪を梳かれる心地良さに身を委ねる。
「貴様の髪は艶やかで美しいな。絹のように滑らかで、梳くたびに艶々と光り輝くようだ。こうして触れているだけで、良い心地になる」
「っ…そんなっ…褒め過ぎですよ、信長様」
「俺は世辞は言わん」
信長様の言葉は、まるで心地の良い呪文のように私の気持ちを高揚させる。
優しい言葉と宝物を扱うような丁寧な手付きに、時間を忘れるぐらいどっぷりと浸ってしまう。
(あぁ…こんなにも大事にしてもらって、私、何て幸せなんだろう)
至福の時間にうっとりと身を委ねていると……
「朱里、出来たぞ」
「っ……わぁ…」
艶やかに梳かれた髪は、信長様の手によって上品に結い上げられており、翡翠の玉簪が飾られていた。
小さな翡翠の玉がシャラリと揺れる音が耳に心地よい。
玉簪の美しさもさることながら、髪を梳くだけでなく結い上げまでしてくれた信長様の手先の器用さに驚く。
「ありがとうございます、信長様。すごく素敵ですね!」
「ん、やはり貴様の黒髪によく映えるな。よう似合っておる」
鏡に映る私を満足げに目を細めて見つめると、髪先を掬い取ってチュッと口付けを落とす。
「あっ…んっ、信長さまっ…」
髪に口付けながら鏡越しに見つめる信長様と目が合ってしまい、その色気たっぷりの視線にドキドキと痛いぐらいに胸が騒ぐ。
「こうして髪を結い上げた貴様は一段と美しい。普段ならこのような艶めかしい髪型はさせんところだが、俺の前でだけは特別だ。俺以外の者に見せることは許さんぞ」
髪を結い上げて露わになったうなじを、信長様の手がするりと撫でる。
鏡に映るそこには、昨夜、信長様に激しく愛された赤い証が鮮やかにいくつも咲き乱れていた。
「んっ…はい、信長様。この身は貴方だけのものですから、信長様が結って下さったこの髪も簪も、今日は誰にも見せません。
ふふ…本当は、今すぐ皆に見せて自慢したいぐらい嬉しかったんですけどね」
「っ…朱里っ…」
首筋を撫でる信長様の手に、自分から頬を擦り寄せた。
今日はこのまま、誰にも会わずにここで過ごそうか……
大好きな人の愛を感じて、愛される喜びに身を委ねて……
来年も再来年も、大好きな貴方の傍で年を重ねていければと、そう願わずにはいられなかった。