第97章 愛とは奪うもの勿れ
年が明け、三が日の謁見も無事に終わった翌日、私は秀吉さんと大広間の片付けをしていた。
「三が日、忙しかったけど無事に終わってよかったね、秀吉さん」
「ああ、慌ただしくてあっという間だったが、無事に済んで何よりだった。御館様が大晦日の夜に城に御不在という、とんでもない事態には参ったが…全く、御館様には少しはご自重頂かないと…もっと城主としての自覚を持ってだなぁ…」
ブツブツと叱言を言い始めた秀吉さんに、私は慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんね、秀吉さん…いつも心配かけて。今年はご迷惑をおかけしないように…信長様共々、頑張ります…」
「あははっ…冗談だよ。朱里、俺に頭なんて下げるな。御館様も曲がりなりにだけど年籠りはして下さったみたいだし……まあ、年始の会にはちょっと遅れられたけど?」
チラリと、秀吉さんらしくない意味深な視線を送られてしまい、恥ずかしくなる。
(うぅ、そうだった…あの後、城に戻って早々に『姫始め』だと言われて愛されて…年始の会、ちょっと遅れちゃったんだよね)
各地の領地からわざわざ挨拶に来てくれた譜代の家臣達を待たせることになり、申し訳ないことをした。
皆は信長様のお顔を見られて嬉しそうだったし、待ち時間にも不満など言っていなかったと秀吉さんからは聞いていた。
何より新年の謁見の場で、嫡男である吉法師のお披露目をしたことで、家臣達の結束はより高まったように思う。
(私ももっと正室としての自覚を持たなくちゃ…もう二人の子の母でもあるんだから、今年はあんまり信長様に流されないようにしないと!)
「あっ!」
心の中で気合いを入れ直している私の横で、秀吉さんが何か思い出したように声を上げた。
「な、何??どうしたの、秀吉さん?」
「っ…しまった、俺としたことが…忘れてた」
急に青ざめた顔色になった秀吉さんに、一体何事が起こったのかと胸騒ぎがし始める。
「忘れてたって…何を?秀吉さんがそんなに慌てるなんて珍しいよね」
「大晦日の夕方に、御館様宛に京から文が届いてたんだ。俺としたことが、年始にかけてバタバタしてたから大事に仕舞ったまま、すっかり忘れてて…早く御館様にお渡ししないと…」
「えっ、京から?それって…朝廷からの御文ってこと??」
もし帝からの御文なら、それを三日も放置してたなんて、それは一大事、大変なことになる。