第95章 雪の日に
翌朝、肌を刺すような冷えた空気にふるりと身を震わせて目覚めた私は、我知らず褥の中でぎゅっと身体を丸める。
(うぅ…寒っ…今朝はまた一段と冷え込みが強いみたい)
昨夜、信長様に余すところなく愛されて濃密に熱が篭っていたのが嘘のように、寝所の空気も冬らしくすっかり冷え切っている。
「……信長様?」
愛しい人の温もりを求めて寝台の上で身動ぐが、そこには求めていた人の姿はなくて……
(っ……信長様っ…どこ?もう起きて……?)
半身を起こして寝所の中を見回してみるが、周囲はまだ薄暗く、夜明け前のようだった。
信長様は、大抵は私より先に目覚めることが多くていらっしゃるが、夜明け前なら私が起きるまでは傍にいて下さる。
それが今朝は…どこに行かれたというのだろうか。
目が覚めて隣に大切な人の温もりがないことが、こんなにも不安を感じることだとは……
居ても立っても居られず、寝台から慌てて身体を起こす。
信長に何度も愛を注がれた身体は気怠く、身の奥はいまだ蕩けたままで、床に降り立った足元は少し覚束なかった。
「信長様っ…?」
寝所を出て、続きの間にも、信長の姿はなかった。
冷え切った部屋の中、文机の上には私が置いた『スノードーム』がそのままになっていた。
(まだ暗いのに…もうご政務に行かれたのかしら…)
思わず胸の内がキュッと締め付けられる。
それは決して、身を切るような寒さのせいだけではなかった。
年越し前の忙しい時期だが、昨日は私の我が儘を聞いて一日『降誕祭』の催しに付き合って下さった。
もしかすると、そのせいでご政務が滞っているのかもしれない。
(どうしよう…私ったら、我が儘言って、忙しい信長様にご負担をおかけしてしまった…?)
一人目覚めた寂しさから、居ても立っても居られずに着崩れた夜着のまま寝所を出てきてしまった自分が、急に恥ずかしくなる。
「……朱里?起きたのか?」
(えっ…?)
信長様の姿が見当たらずモヤモヤと考え込んでいた私は、突如聞こえた愛しい人の声に、訳が分からなくなって立ち竦む。
「ここだ」
廻縁に続く障子がスパンっと開いたかと思うと、薄暗かった室内に蒼白い明かりがすぅーっと射し込んだ。
それと同時に、部屋の中にヒヤリと冷たく澄んだ空気が入り込む。
「っ、信長様っ!」